指みたいなもの(その3)
高野は窓ガラスで自分の足を刺した子供の顔に右の拳をで力強く振り下ろし殴りつけた。
その子は床に散らばった窓ガラスの破片に吹き飛ばされた。
体は破片で血だらけになっているが、子供とは思えないうめき声を上げて、また窓ガラスの破片を拾った。
高野は足を引きずりながら出口へと歩き出した。
健一は何とか立ち上がり、子供の元へと向かった。サイレンの音が近くなっていたので、もう、逃げることは出来ないと思ったのと、泣きながら子供とは思えない狂気じみた顔をしているこの子を落ち着かせたかった。
「もう、大丈夫、あいつは捕まるよ。逃げ切れない…だから、もうそれを離すんだ…」
子供の腕を優しく握りながら健一は言った。
「もう、大丈夫だから」
健一も自分ではどんな表情をしているのかは分からなかった。この子にどんな顔をして何を言ってあげればいいのか、思いつかなかった。
ただ、これ以上こんな狂った出来事に合ってしまったこの子を救ってあげたかった。
何回目かわからない、健一の「もう大丈夫だから…」という言葉が通じたのか分からないが、怖いうめき声から子供の大きな泣き声に変わった。
持っていた窓ガラスの破片も手からするりと床に落ちてパリンと割れた。
高野は出口を出たところで、セキュリティに包囲されて、捕まった。
健一が事務所にある包帯とガーゼで、子供の手や体の応急手当と気絶していた中村を起こしていたら、セキュリティが入ってきた。
気絶から起きた中村が事情を説明し、健一は高野が行った映像の記録をセキュリティに渡した。
高野は強制わいせつ罪で懲役10年で、一生刑務所に入っていて欲しかったが、そうはならなかった。
子供が無理やり性転換手術をされているのだが、高野が行った証拠を掴むことが出来ず、この子の戸籍も女で登録されており、誰かが改変したのか。それとも元々、女として登録されていたのか謎だった。
高野には協力者が何人もいるのだろう、性転換手術を行った医師。戸籍データ改ざんを行った役所の人間。どの位いるのだろうか。
健一と中村が出来たことと言えば、高野が運営していた児童養護施設をフロートシティから無くすことだけだった。
それと、子供は元々、樹という名前だったが、街の方から名前を変えたらどうか?という提案を受け、今では翼と改名した。
8歳で大人に強制的に性転換手術され弄ばれ、人生を滅茶苦茶にされたのが、今、一緒に住んでいる北野翼だ。