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指みたいなもの

 健一はいつも始業の9時ギリギリに到着するのだが、事務所に始業の30分前に到着をしていた。翼がバイトとして働く初日だからだ。

 事務所のスタッフは茂木だけで、翼は事務所に何回も来たことがあるから知っている仲ではあるが、茂木目線からすれば翼は後輩、健一は代表兼保護者にあたる。遅れては茂木に対して失礼だ。

 翼はこの春に4月から大学生になったが、午前の授業はないとのことで2人一緒に早めに出勤をした。


 2人が到着して直ぐに「おはようございます!」と茂木が事務所に入ってきた。

「翼ちゃんよろしく〜!前までまだに小さかったのに、一緒に働くことになるだなんて…」

 翼はバレバレなわかりやすい作り笑顔で「ついこの間も会いましたよね?茂木さん」と返した。

「成長を見守っていてくれてありがとう。って意味だよ。茂木くん」

「全然わかってます〜」と茂木が言うと、3人で笑った。


 茂木に翼の面倒を任せると、2人は1階のモデリングルームへ行った。一連の流れを教えているのであろう。

 健一は自分のデスクから事務所にあるモニターを観た。モニターには1階の様子が映っており、2人がいるのが確認できる。楽しそうに話をしている。


 そんな、翼の姿を観ながら健一は昔のことを思い出していた。

 

 翼と出会ったのは10年前のことである。健一はフロートシティに越してきたばかりで、事務所も開業したてだった。

 越してきて3日目、家の近くのバーで飲んでいたら中村という男性の医者と知り合いになった。

 知り合いもいないのでカウンターで健一が1人で飲んでいると中村が話しかけてきたのだ。

「高松健一さんですよね?」

「えっ…」

 健一は驚いてこの街で会った人なのか思い出そうとしていると、中村は「プロフィール情報オンにしたままになっていますよ」と自分のメガネを指で突いて言った。

 健一は178cm身長あるが中村も同じくらいだった。中は恐らくTシャツの薄い青いジャケットを羽織っていた。方には小さな鳥の機械が止まっていた。ハチドリだ。

 

「この街に来たばかりだと忘れがちですよね。僕もそうでしたから」

「あっ…ありがとうございます」

 慌ててプロフィール情報をオフにする操作をしていると「僕の名前は中村と言います。この街で医者をやってます」と中村が自己紹介した。そして、「同じ歳というのが見えてつい声をかけてしまいました。すみません」と言った。

「いえいえ。助かりました!公開しているのが恥ずかしいと気付けたので良かったです。私は記憶保存士の仕事をしています。いや、一昨日来たばかりで昨日届けを出したばかりなんですよ。仕事しているとは言えないかな?」


 これが、中村との最初の出会いだった。その時から中村とバーで会うと酒を飲むようになった。


 ある時、中村から相談を受けた。中村が勤めている病院に意識障害のある女の子がいるとのことだった。

 起きてはいるが反応がない状態。放心状態が続いていた。その子はフロートシティにいくつかある一つの児童施設にいる子で、職員に連れられてきて今、入院しているという。木から落ちたとのこと。運び込まれて目を覚ましたがこの状態が続いている。


 記憶保存士は脳に対して微弱な電磁気を当て、頭でイメージしたものを機器が受信をし、モニターに映像を映す。今、その子がどんな状態にあるのか、意識を目覚めさせることが出来る方法があるのではないかというのが、中村の相談だった。


「たぶん、難しいと思うけど…機器とリンクが出来ていないと映像の出力が難しいんだ。最初はそれを調整するんだけど。よほど強い何かをイメージしないと…」

「駄目でも良いんだ。何かが映る可能性だってなくはないだろう?」

「まぁ。確かにな。」

 健一は中村に頷き同意をし「子供が不幸な目に合うのはかわいそうだ…」と呟いた。


 翌日、翼は健一の事務所にある一階のモデリングルームに運び込まれた。

 1階の入り口にはカーテンを閉め外から見えないようにした。


 ユニットの背もたれを寝かせ、女の子を運び寝かせた。頭にヘルメットを被せ準備をした。脳波計も正常のようだ。何か映像は出るだろうか。

「準備できたぞ」健一は中村に言った。

「わかった。始めてくれ」


 健一は磁気刺激のメーターを少しずつ上げていった。

 すると、暗いモニターにノイズが幾つも走った。人の手が見える、大きくて太い指だ。

 映像が暗くて顔はよくわからない。太った男がワイシャツのボタンを一つ一つ外していく。映像はバタバタと左右に揺れているが相手から視線をそらさないようにバタバタしている。

 シャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ、パンツを脱いだ。男が近寄ってきた。顔を両手で掴まれて男の顔がアップになった。今度は男の顔が離れる。歯を見せないように口が開いている。また近づく。それを繰り返している。その度に男の口の端から糸が引いているのがみえる。その糸を男が舌で拭った。

 男が近づいても最初のほうがバタバタと左右に映像が動いていたが、何回か繰り返している内に画面は動かなくなった。


「おい。これ…もういいだろ…」

 予想はしていたことだったが、健一は中村に言って唇を噛んだ。

「録画してあるよな…」

「もちろん…」

 健一は少女を見つめながら返事をした。視界の端にみえる映像はまだ続いている。

 男の顔は見えないが上下に動いている。ただただ、映像がずっと上下に動いている。


 本の数秒、沈黙が続いた時、映像の男が手のひらに小さな指のようなものを見せてきた。それが映った瞬間、今までで一番激しく映像が揺れた。バタバタと揺れた。男は笑っている。


 あれは指だと思ったけど、あれは指なんかじゃない。あれは男の性器だ。まだ小さな…

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