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桜が散りましたね

「これでバックアップは終わりだな」

 高松健一のパーソナルアシスタントがそう言うと健一は「ありがとう」とだけ返事をし、椅子の背もたれにもたれかかり両腕を上に挙げ「ふー」と言いながら伸びをした。そして、トンボ型の機械が健一の頭に止まった。

 ガチャっと事務所のドアが開く音が聞こえた。スタッフの茂木がモデリングルームから戻ってきた。肩にはてんとう虫の機械がいる。


「高松さん、準備の方が終わりました」

「オッケー。ありがとう。この後も茂木くんが1人でやってくれてもいいんだよ?明日から生意気な後輩がくるでしょ?予行練習だと思ってさ」


 伸びをしながら更に欠伸もしながら健一は返事をした。目がいつも通りやる気がない。

 トンボは肩に移動した。


「いやいや、高松さんのお客様ですから。今日でラストなので面倒くさがらずお願いします。」


 茂木はにこにこ笑みを浮かべながらそう言って、お客様が待っているモデリングルームへ戻っていった。

 茂木は背が160cm前半で愛嬌が良く、気使いで良いやつだ。一生懸命仕事もしている。欠点といえば、子供からはよく舐められてしまう。きっとそれは背が低い上に腰も低いからだろう。あと、何故か女性からモテない。茂木が振られるたびに「良いやつなのに」といつも健一は思っていた。でも、そんな所も含めて気に入っていた。


 階段を降りてモデリングルームに行くと健一の顔つきはさっき茂木と話していたときと変わっていた。仕事で人前に出るときは顔つきが変わるのだ。

 自分で意識してやっているわけではなく、勝手にスイッチが入るらしい。やる気のない死んだ目をしていた人間とは正反対の好青年の様な顔つきになっている。


 茂木からは前に「高松さんって絶対二重人格ですよね?」と言われた程だった。


「お待たせしました。朝霧さま。今日で最後ですね。前回頂いた意見から修正しましたので、今日はそちらの映像をご覧くださいませ。」

 お客様は脳波計とゴーグルを装着しユニットと呼ばれているリクライニング出来る椅子に座った。


 健一の仕事は人の記憶を保存する記憶保存士の仕事を行っている。今回のお客様は奥様と日本で桜を若いときに見た記憶とその時の話を残したい。という依頼だった。


 記憶保存は人の頭に脳波を計測する機械を装着してその脳波を機械が読み取ってPCに物体を出力させる。


 人がイメージしたものを必ずしも読み取れる訳ではない。イメージ力が弱いと写真がボケた様な映像が出力される。それを鮮明にイメージ出来るようにサポートするのが記憶保存士の仕事である。

 上手くイメージができない場合は記憶保存士が3Dのモデリングを行いそれを人の脳へ送信し差異をなくしていくのだ。


【記憶を保存する方法】

 お客様の頭に脳波を計測する機械を装着する

 脳波と機械の互換性をよくするためにテストを行う

 (赤いりんごをイメージしてください→赤いリンゴが出力されたらOK)

 お客様が残したい記憶のシーンをイメージしてもらう

 (外の公園で桜を見ながらビールを飲んで話をしていた。どんな匂いがした?天気は?暑い?寒い?どんな話をした?相手はどんな声?)

 上手く思い出せない場合は話を聞きながら、または写真を見ながら3Dを構築していく

 データをお渡ししてセリフなどはお客様自身が修正してもOK


 なので、恥ずかしい話の場合は自分でセリフを家で入れることもできる。


 

 映像が終わり健一はお客様に「いかがでしたか?」と質問をした。お客様は「ありがとう。ありがとうございます…」と少し目に涙を浮かべながら答えた。

 その後、切なそうな後ろ姿のお客様を送り、今日の仕事が完了した。


 茂木が言った「朝霧様は切なそうでしたね」茂木は情にもろい。


「あの桜の映像があの人にとって良い記憶とは限らないけどな」

「えっ?どういうことですか?奥様との大切な記憶ですよね?」

「あの女性は奥様じゃないかもしれない。前に付き合ってた人との忘れられない記憶なんだと思う。自分の戒めの為に残したんだよ。だからあんなに切なそうだったんだ」

「どうしてそんなことがわかるんですか?」

「ん?勘だよ。これ以上は守秘義務に関わるし、憶測なので話せません」


 茂木は「教えて下さいよー」と健一に言ってくるが健一は無視をして外に出た。


 外では海の上に浮かぶ街では珍しい桜の花びらが綺麗に散っていた。

 健一の手のひらに花びらが落ちて「春だねー」と健一は呟いた。

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