第4話 佇む少年剣士
アクトウとの激闘後のこと。
竜牙は力を使い果たし、応急室で休んでいた。その場には、ソイとアリス、そして四天王のバトルトとシアムが看病という形で見守っていた。
竜牙が目が覚めるまで、四人で今までの出来事を振り返っていた。
「大丈夫かな…?竜牙君だっけ?」
「大丈夫よ…きっと」
「にしてもすげぇよな…アイツを倒すなんてな」
「あぁ…1時はどうなるかと思ったが…特殊なオーラで倒したのは…」
「あれってなんだろうね?龍の形してたけど」
「ドラゴン…ショットって彼は言ってたわね…」
「ドラゴンショットか…」
少しして、竜牙は寝起きのようにゆっくりと起き上がる。
「お!竜牙!気が付いたか!」
「あれ?ここは…何処だ?」
「ここは、コロシアムの応急室だ」
「応急室…か」
「さっきはありがとうございましたっ!」
そうアリスは言いながらお辞儀をする。
「…?俺は感謝するほどまでのことはしてねぇぞ?」
「…なんだと…!?」
「竜牙?頭いかれたのか?」
「だってよ、俺がただ勝手に助けたいっていう我儘な感情だけだし…お願いされて助けたってんなら、別だけどよ。俺は勝手にやったことだから、感謝するほどまでのことはやってねぇ」
…こいつ…本当に人間なのか…?こんな考えをしたやつは見たことないぞ…。どう見ても感謝するような事をしたのに…どうしてここまで…。
竜牙の言葉でアリスとシアムは思わず涙を零してしまう。
竜牙の特に考えていないような、奥深い優しさとも感じ取れる性格に驚愕しつつも心をふっと包まれる。
「私ながらのお礼といってはなんですが、この後、街ギルドに案内してもいいですか?」
「街ギルドに?」
「はい、料理を堪能して欲しくって…ダメですかね?」
「別に構わねぇけどさ、敬語はやめてくれねぇかな…?なんか歯痒くてさ…それに見た感じ同年代だと思うしな」
「じゃ、竜牙くん…でいいかな?」
「あぁ!いいぜ!」
応急室の隅は和やかな雰囲気に包まれた。
日が暮れ、橙色の光が街を包み込んでいる時間となった。
竜牙とソイ、そしてアリスは、街ギルドへと向かっている最中だった。そんな時、背後から少しずつ声が聞こえてくるのだった。
「アリスぅぅぅ!!!」
可憐な走り方で、靡く金髪の髪を左右に動かしながら向かってくる少女。
「シアムちゃん!!?」
「シアム?って、うわっ!」
飛びかかるように抱きつきアリスは思わず尻もちをしてしまう。
「アリスぅぅぅ…!」
「危ないじゃない…なに?どうしたの?」
「ほんどによがっだぁ…いぎでるぅ…」
生きている嬉しさのあまりか泣き始める。
「こらこら…二人もいるんだから…泣かないの」
「ふぇ?……あ!こ、これは…」
竜牙とソイの方に顔を向けると赤面して顔を見せないように隠す。
「ギャップ萌えってやつだな!竜牙!」
「ギャップ萌え…?」
興奮しながら竜牙の背中に腕をまわし、手でバンバンと叩くソイ。
気を取り直して、街ギルドに向かうと、多くのテーブルの数の中に、一席だけ料理の数が多い場所があった。見るからにそこで食べるのだと感じ取れる様子だった。
「さて、竜牙くんとシアムは代金はいらないから。竜牙くんは疲れてるだろうからじゃんじゃんと食べてね!」
「お、おう…」
「なぁ?俺は?」
「アンタは、食べた分の代金払いなさいよ?」
「嘘だろぉ!?」
「ふふっ…!」
そんな賑やかな雰囲気だった。
1口料理を口に運ぶ、咀嚼する毎に涙が流れ始める。何故なら今までちゃんとしたものを食べていなかったからだった。
なんて下界はいい所なんだろうと。あれ程まで嫌で嫌で堪らなかった天界より良いところだとそうしみじみと思いながら料理を食べ進む。そんな、幸せに感じていた日々はあっという間に過ぎ、日が落ち外は真っ暗になっていた。
「そろそろ…お開きね」
「ふぅ…食った食った…、美味しかったか?竜牙?」
「ん?あぁ!めっちゃ美味しかった!」
「ふふっ、良かったね!竜牙!」
「ん?」
「あ、ごめん…。呼び捨てダメだった?」
「いや、全然大丈夫だけど…なんか嬉しかったというか…なんか懐かしいような感じがした気がして…」
「ふっ、竜牙君って意外と気障?」
シアムは赤面して目線を外す。アリスはその様子に冗談をまじ合わせながらからかう。
「あ、そうだ、竜牙君は何処から来たの?」
「そ、それは…」
言っていいのか…言ってはいけないのか。どうなのかわからず、思わず思い悩み顔を下げる。
「まぁ、きっとどっかなんだろうな、竜牙はここに来たの初めてっぽい感じだったしよ。」
「そう…じゃあどこで寝るのかしら…?」
「じゃ!わ、私の家とかってどうかな…?」
「シアム…?」
「あ!いや、べ、別に深い意味じゃなくて!ほ、ほら!助けてくれた御恩もあるし!ね!」
「羨ましいなぁ!竜牙!断ったら俺が許さねぇ!いけ!竜牙!」
「お、おう?じゃあ…」
竜牙とシアム、ソイとアリスという形で二つに別れ解散していく。
「アンタは、宿探しなさいよ?」
「なぁ!アリスさん、俺に冷たくね?」
街灯の光に照らされながら二人でゆっくりとゆっくりとシアムの家に向かっていた。その際、何故アリスが人質として囚われてたのか、シアムは知っていたようで詳しく話を聞かせてもらっていた。
時を遡ること、数時間前…。
シアムは、アリスのギルドで朝ご飯を食べていた時の事だった。
ギルドの外から徐々に此方へと騒がしい音が聞こえてくるのだった。
そして、ギルドの入口付近にまで来ると、大きな衝突音と共に、耳煩い声が聞こえてくる。
「よぉ!空いてるかぁ?」
その声に反応するかのように少しだけ、右の肩から覗くように様子を見ると、そこに映る光景は、狂気的なものだった。
ドアはボロボロに壊され、通行人だろうか?見知らぬ男性の顔を踏み台にするように、雄叫びを放っていた大柄の男がいた。
そう、彼こそが例の虐殺集団のリーダー、アクトウだったのだ。
その悪質な態度を一部始終を見て腹を立てたアリスが、客の注文を受けているのを一時的に止め、注意するように怒号を放った。
「なんなのアンタ!?こんな朝から煩い声出さないでくれる!?それに、ドアを壊して…そんなやつ出禁よ出禁!聞いてるの!?」
その注意に、他の周りは彼の存在を知っているのか『やめといた方が…』と感じながら様子を見ていた。
アクトウはアリスの怒号を聞きもせず、ドカドカとシアムの居るカウンターへと向かっていた。
…来る!…た、助けて…!誰か!
大きな男の手で、シアムの肩に置く。
「なぁ?嬢ちゃん…いい面してんな?美しいぜ?なぁ、嬢ちゃん…なんて名だ?」
アリスは諦めず、アクトウの方に向かい遂には平手打ちを頬に放った。
周囲には大きなビンタの音が周囲に響いた。
「うちのシアムに手出ししないでくれる…?」
「…へぇ、シアムって…あの四天王の一人じゃねぇか…へへっ…気に入った。こいつを貰っていく!いい稼ぎになりそうだ!」
そういい、シアムの肩をがっしりと握りしめようとする。
「シアムを取るなら私にしなさい!さもないとどうなるかわかるわよね?」
「テメェなんぞ、いらねぇよ…口女が」
「く、口女…!?」
「アリス…もう…大丈夫だよ?私…この人の言う事聞くから…」
「ダメよ!あんたが連れてかれたらお兄さんはどうするの!?ダメ!私にしなさい!大男!」
アクトウは、言う事を聞かずに襲いかかろうとした時だった。何処かで強い落下音が聞こえたのだ。その反応に一度身体が固まる。
その様子を見たアリスは、アクトウにかけて蹴りかかろうとする。しかし、安易にアリスの足を掴み、一言残す。
「…やっぱテメェでいいや、さっきからうぜぇからな…それと…嬢ちゃん…返して欲しければアンタの手で返しに来な…ふっ、まぁ無理だけどな」
笑いながら、アリスを掴みながらギルドへ出ていく。
そのことで、実は人質にされそうになっていたのは、シアムということを知り、守ってくれたアリス、そして、アリスの命を救ってくれた竜牙には二重で感謝しかないと話した。
そして、そんな話をしているとシアムの家の目の前に居た。そして、ドアを開けると…小さな男の子が出迎えてくれた。
「その男の人だれ!?」
「え、え〜と、これは…その」
「この子誰なんだ…?」
「オレ、アルシって言うんだ!シアム姉ちゃんの弟さ!」
「弟か…兄が居るのは知っていたけど弟もいるんだな」
「うん…そうなんだ」
「彼氏さんは?」
「ん?彼氏?俺は神龍竜牙だ、よろしくな」
「あ、アルシ!?この人は彼氏じゃなくて!居候することになった人!」
「あぁ〜同棲ね!お姉ちゃん!」
「違う〜!!!!」
弟の生意気なからかいに恥ずかしながら怒っていた。そんなこんなで、竜牙は空いていた寝室で寝ることに。
竜牙はシングルベッドで横になっていた。
…それにしても、まともにちゃんとした所で寝るのは初めてだな…。
今日は色々あったなぁ。下界で過ごすのも案外悪くねぇな…ハハッ、まるで天界が地獄みてぇだったな…。
竜牙は、今まで倉庫のような場所で汚れた布の上で寝ることしかなかった日々を思い出しながら今の状況が幸せなんだなと感じながら眠りについた。そして、この家で暮らすこと7日後…。
竜牙はシアム達にこの街について案内や店に訪れたりしていた。
「どう?この街、良いところでしょ?」
「ここね!ドーナッツみたいな形してるんだよ!おじいちゃんに教えてもらったんだ!」
「へぇ…そうなのか…物知りなんだな、アルシは」
いつの間にか、シアムとアルシ共に仲良くなっていた。そして、シアムは買い出しをするから待っててほしいと言いながら竜牙とアルシはシアムの買い出しを待つことに。
「お姉ちゃんの買い出し、長いんだよなぁ!」
「へぇ…そうなんだな…」
俺達は待つべくコロシアム近くのベンチでのんびりと座っていた。
すると、左側の方から俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくるのだった。
「神龍竜牙!俺と勝負しろ!あの頃の決着をつけにきた!」
声がする方に目を移すと店の屋根に仁王立ちで刀を前にむき出し、此方を睨んでいた。
「お兄さんの知り合い?」
「いやぁ…?知らねぇな…」
「いざ勝負!」
そう言い、屋根から飛び降り着地と同時に刀を突くように飛びかかるように向かってくる。
アルシに危害が及ばないよう迅速に守りつつ避けるも頬が少し斬れる。
「…ぐっ!」
「ちっ!避けたか!」
「誰なんだよ!お前!」
「忘れたのか…?いや…惚けていても無駄だ!」
「いや…本当に知らないんだって!」
「…。白雪銀河だ!」
「しらゆき…?」
「はくゆきだ!は・く・ゆ・き・だ!」
「お、おう…」
銀色に輝いて、風に靡かされるその髪に、山奥の天然水のように澄んだ水色の瞳はまるで、女の子のような顔だった。そんな彼は、竜牙に剣先を向けつつ、険しい顔で見つめてくるのだった。
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