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「許して」
妻が僕の足にすがりついて泣いた。
また変な夢を見ている。
足にすがりつく妻を、僕は見下ろしている。これは記憶だろうか。それとも、ただの夢だろうか。
僕は妻を乱暴に振りほどいた。倒れた彼女のお腹は赤く染まっていた。その赤い染みの中心に、包丁が刺さっていた。あれは出刃包丁だ。彼女が好んで使っていた包丁が、今は彼女のお腹に刺さっている。少しおかしく感じた。夢だからだろうか、恐ろしさはまったくなかった。それよりも、とても気持ちが醒めていた。冷たい岩が、僕のおへそのあたりにごろりと転がっているような感覚。
これは――絶望?