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「ヘルヴィム……」
ポセイドンが満足そうに頷いた。
「どうして……」
言葉が詰まってしまった。
「お前なのか」
ポセイドンは再び頷いた。
「だったら、なおさら僕と一緒にここにいよう。ここで暮らそう」
ポセイドンは首を振る。
「なんだよ、なんとか言ってくれよ」
「俺は……」
ポセイドンは詰まったような声をだしたあと、短く咳払いをした。
「俺は、特異点なんだ。それが、俺に与えられた役柄なのさ。この性格も、君をトレースしている」
「一体、何を言っているんだ」
僕はポセイドンに近付く。ポセイドンは後ずさった。
「俺がここにいる理由は、君に思い出してもらわなくちゃいけない。そうしなければ、俺の存在意義がなくなってしまう」
「なんだよ、それ。教えてくれよ」
ポセイドンは諦めたような顔で首を振る。
「自分で思い出すんだ。どうして、俺がこんな大役を任されたのか」
「思い出せないんだ」
「じゃあ、君を殺すしか無いな」
ポセイドンが壁に立てかけてあった槍を手に取る。
「ま、待て。どうして僕を殺す必要がある」
「それも、自分で思い出してくれ」
言うなり、ポセイドンが槍を僕に向かって突く。風圧だけで吹き飛ばされそうだった。すんでのところで避けられたと思ったが、腕が切れていた。
生温い血が、腕を伝って地面に落ちた。ものすごく強い殺気を感じた。
ポセイドンの目を見る。やはり、冗談ではない。
「話をしよう」
滝のように汗が流れる。少しでも時間稼ぎをして、事態が好転するような名案を放り出さなくては。
ポセイドンの冷たい目が僕を射抜く。時間稼ぎを見破られている。
ゴゴゴ、と地鳴りがしたと思ったら、強い地震が起きた。とても立っていられる状況ではない。僕は尻餅をついて、さらに部屋の中を右へ左へ転がったが、ポセイドンは立ったままだった。
「もうすぐ島が崩れる」
ポセイドンが部屋から出る。その隙に逃げれば良いのに、彼から、いや飼い猫のヘルヴィムから離れたくなかった。それが僕を殺そうとしているとしても。
僕は這うようにしてポセイドンを追った。外は僕が思っていたよりも大変な事態になっていた。大地は割れ、木は倒れ、島の形が変わっている。しかし、海は静謐を守っており、揺れているのが島だけであることがわかった。そんなことあるだろうか。
「俺の力で、この島を消すことにした」
神の力というのは、こんなことも可能らしい。
「どうしても、やめられないのか」
ポセイドンは頷く。




