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僕は猫を飼っていた。黒猫だ。元は野良猫だったその猫に、僕は天使の名前をつけた。だって、天使のように可愛かったから。
不思議な猫だった。機嫌が良いときは、ヒヒヒ、と笑い声のような鳴き声を上げた。それが面白くて、よく喉元をなでたりした。
猫はよく、人を食ったような態度をした。猫というのはそういうものかもしれない。何もないところで転んだ時なんて、僕を馬鹿にしたように見下していた。
僕が買ってあげたぬいぐるみを、猫は寝るときにいつも抱いていた。ぬいぐるみを、プロテウスと名付けた。猫にも、小さな王冠を買ってきてかぶらせた。猫はそれが嫌だったようで、すぐに首を振って落とした。
僕はいつもその猫と一緒だった。彼女と付き合う前も、彼女と結婚した後も、彼女を殺したときも。いつも、猫は一緒にいてくれた。
猫のくせに、そいつは風呂が好きだった。普通の猫は嫌がると聞いたが、僕が風呂に入っていると、猫はいつものぞきに来た。洗面器にお湯をためてやると、自分でその中に入った。
雨の日は、よく窓の外を眺めていた。窓を開けてやると、雨の中を踊った。
「水が好きな猫なんて、面白い奴だな。もしかしたら、お前はポセイドンの生まれ変わりかもしれない」
僕は冗談でよくそんなことを言った。
その愛おしい猫の名を何度呼んだことか。
「なあ、ヘルヴィム」




