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僕が妻に出会ったとき、彼女は刺繍が得意だった。それは、彼女がストリッパーだったからだ。それを知らず、刺繍の入ったハンカチなんて使っているから、さぞ立派な家の娘なのだろうと思っていた僕は、随分間抜けに思えたことだろう。彼女は、ほつれたドレスを自分で修繕していた。彼女のドレスには、特徴的な刺繍が入っていた。彼女のサインのようなものらしかった。
僕は彼女に一目惚れした。ハンカチを拾って以来、彼女にストーキングを繰り返した。ストリッパーだと知ったときは驚いたが、それでも良かった。ただ、彼女にすり寄る客や従業員は人目につかないところへ連れて行って、二度と彼女に近付けないようにした。
何度か通ってチップを弾むと、彼女はすぐに僕についてきた。頭のネジも緩ければ股も緩い女だった。それでも、僕は彼女のことが好きだった。
何度めかの夜をともにした後、彼女は「赤ちゃんが出来たの」と言った。僕の子だと言ったが、他の男にも同じことを言っているのだろうということはわかっていた。なぜなら、僕は子供を作れない体質だからだ。
「いくら出せば良い?」
堕胎を提案した。手術の金目当てだと思ったからだ。しかし、彼女は首を振り、産むのだと言ってはにかんだ。だから、僕は彼女の腹を思い切り蹴飛ばした。不思議と、彼女の妊娠が嘘だとは疑わなかった。彼女は驚いて目を剥いた。まさか、僕がそんなことをするとは思っていなかったようだ。
僕はよく女から、人畜無害の優しい男だと評価された。だから、彼女もそう思ったに違いない。その思い込みが、余計僕の行動に驚かされたのだ。
僕は彼女の腹を蹴った。殴った。どれくらい殴れば堕胎するのかわからなかったから、やりすぎてしまった。動かなくなったので、彼女はそのまま死んでしまったと思った。
僕は彼女の亡骸を抱えて、海へ飛び込んだ。すると、彼女は海の水を飲んで咳き込んだ。気を失っただけで、まだ生きていたのだ。そうとも知らずに、馬鹿な僕は海に飛び込んでしまった。せめて、彼女がこれ以上苦しまないように、首を絞めた。彼女に首には、赤黒い痕が残った。
ああ、そうだ。あの街で僕をパパと呼んだのは、産まれなかった僕たちの子供だ。そうに違いない。
そうに違いないのだ。




