表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仏に逢うては仏を殺せ 父母に逢うては父母を殺せ  作者: よねり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/78

64


 牛小屋の中で、家畜が飲む水を変えながら、ぼんやりと空を眺めた。

 まだ、あの村人に掴まれた腕が痛む。見るとアザになっていた。

 一体、森の奥には何があるのだろうか。気になるが、またあの村人が邪魔しに来るんではないかと思うと、尻込みしてしまう。

 牛が鳴いた。また、あの時みたいにしゃべるのかと思って身構えたが、果たして牛が喋り始めることはなかった。

「バカバカしい」

 何に対してなのか、自分でもわからないが、モヤモヤしている気持ちを吹き飛ばしたくて呟いた。尻を落っことしたみたいに豪快に座ると、干し草が舞った。思いの外大きな声になってしまって、誰かに聞こえていないかと恥ずかしくなった。

「何がバカバカしいの」

 牛小屋の外からひょいと顔をのぞかせたのは、シモーヌだった。村長の家の前でのやり取りを思い出す。

「忠告でもしに来たのか」

「何の?」 

 トボケたような顔で、シモーヌが言う。

 僕はポケットからジョイントを取り出すと、火をつけた。

「牛小屋の中でそんなもの吸うなんて、非常識じゃない」

 シモーヌだけでなく、牛まで僕を非難するような目で見ていた。

「うるさい。僕がどこでなにをしようと勝手だろう」

 シモーヌに向かって煙を吐き出す。彼女は嫌そうに顔を背けた。

「あそこ、行ったんだってね」

「何の話だ?」

「とぼけても無駄。この村で起こったことは、みんな知ってる」

「さっきはとぼけていたくせに」

 シモーヌが「あはは」と笑った。笑った拍子に白衣から覗いた肌が健康的に焼けていた。そこに髪の毛が垂れて、艶かしく見えた。初めて会ったときはそんなコト思いもしなかったのに、どういう心境の変化だろう。

「なんだよ」

「単純なのね。カマをかけただけなのに」

 僕は彼女を押し倒した。

「僕を馬鹿にするな」

「そうやって、女に暴力を振るうの?」

 どこかで、この光景を見たような気がする。

 僕の口から落ちたジョイントが、地面で煙を上げていた。拾おうとする前に、それは干し草に燃え移ると、あっという間に牛小屋全体に広がった。

「だから言ったじゃない。早くどいてよ。あなたと心中するつもりはないわ」

 火が広がってゆく様子を呆然と見ていた僕の下で、シモーヌが言った。

 火の粉が顔に飛んできて熱いと感じてから、初めて逃げなくちゃと思った。僕は慌てて小屋の外へ走り出す。

「待ってよ。私を連れて行かないの? ここに置いていくつもり?」

 小屋の中で、まだ寝転がったままのシモーヌが歌うように言った。

 何だこいつは。酔っ払っているのか。ラリっているのか。

「自分でどうにかしろ」

「冷たいのね」

 小屋の入り口が焼け落ちた。シモーヌは最後まで出てこなかった。

 あの女は何をしに来たのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ