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「今日も馬鹿面ね」
家に入ってきて早々ルネが言った。彼女はどうしてこんなに口が悪いのだろう。デカルトとは全く違う。彼女はデカルトのことを弟と言っていたが、デカルトとは血が繋がっていないようだ。そうでなければ、村長はルネがなるはずだ。女だからそのレールからは外されてたということだろうか。
「朝からご挨拶だね」
寝ぼけ眼で彼女の不機嫌な顔を眺める。僕の隣では、妻が寝息を立てていた。彼女を起こさないように、そっと寝台から降りた。
「ふん、馬鹿に馬鹿って言って何が悪いのよ。変質者みたいな顔して」
今日のルネは特に不機嫌そうだ。
「どうしたんだ、今日は」
水の入ったボトルを傾けながら、家の外へ出る。すでに太陽は高く昇っていた。家畜の世話をしに行かないとなあ。
ルネが僕の足に回し蹴りをした。子供の力だ。倒れるほどではない。
「デカルトが忙しくて構ってもらえないのか」
ルネの回し蹴りに力が入った。
「構ってやっていたのは私の方よ。勘違いしないで」
よく見ると、目を赤くしている。
「大人は忙しいんだ。用がないなら行くぞ」
井戸で水を汲むと、顔を洗った。ルネはずっと僕についてきて、顔を洗っている間も後ろで何かブツブツ言っていた。
「大人って嫌い」
吐き捨てると、ルネは走って行ってしまった。
いつも口が悪いが、今日はそれに輪をかけて悪かった。何か言いたいことがあったのだろうか、と気付く頃には、ルネは見えなくなっていた。




