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夢を見ている。時折、これは夢の中だとわかってしまうときがある。今が、まさにそうだ。
僕はどこかの浜辺にいた。空は青くて、波の音が耳に心地よい。ずっとここにいたい。
誰かが僕の名前を呼んだ。
僕の名前。
よく聞き取れないが、それが僕の名前だと言うことだけはわかる。
振り返ると、眩しい笑顔の女の子。胸には黒猫を抱いている。その猫は見覚えがある。僕が飼っていた猫だ。
僕は彼女に手を振る。
「今度こそ……」
彼女はまだ少し遠くにいるはずなのに、耳元から彼女の声が聞こえる。
「今度こそ、幸せになってね」