表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仏に逢うては仏を殺せ 父母に逢うては父母を殺せ  作者: よねり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/78

32


 ヘルヴィムのいる洞窟へ向かった。妻の記憶喪失を治す手立てを、何か思いついているかもしれない。

 久しぶりに訪れた洞窟は、全く変わった様子はなかった。以前と同じ場所に口を開けており、同じ場所にヘルヴィムの居室への扉がある。

 扉に手をかける。天使の村の惨状を思い出して気分が悪くなった。いつもの頭痛を伴ったフラッシュバックではないが、あの惨状はトラウマだ。努めて思い出さないようにしていたが、つい思い出してしまう。

「おやおや、どうしたお客人」

 背後から声がした。振り返るとヘルヴィムだった。顔が隠れるほど大きな紙袋を抱えていた。彼は紙袋の横からひょいと顔をのぞかせていた。

「あんた、無事だったのか」

 僕が言うと、ヘルヴィムはヒッヒッヒと気持ち悪い笑い方をした。

「まあね。俺が簡単にくたばるとは、君も思っていないだろう?」

 憎らしいほどに変わらない彼に安堵した。

「あのあと、大丈夫だったのか」

「あのあと? ああ、君が来た後ね。何も問題なかったよ。何もね。それより、扉を開けてくれないか。手がふさがっているんだ」

 何もなかっただと――?

「そんなはずあるか。あんなに人が死んだんだぞ」

 ヘルヴィムの胸ぐらを掴むと、彼は紙袋を取り落とした。

「あーあ、なにするんだ、もったいない」

 紙袋からなにかの汁が零れた。

「わ、悪い」

 慌てて紙袋を拾おうとしたが、ヘルヴィムに跳ね除けられた。彼は怒った様子で紙袋を拾う。

「はやく扉を開けてくれよ」

 扉をあけてやると、ヘルヴィムは通りづらそうに部屋の中に入った。紙袋の中から、りんごを一つ取り出して僕に投げつける。取りそこねて落としてしまった。りんごは落とした箇所が凹んで、部屋の隅へ転がっていった。

「不器用だな」

 ヘルヴィムが笑う。この男は、いつも僕を馬鹿にしているように感じる。不愉快な男だが憎めない。

「これは?」

 りんごを追うと、部屋の隅で奇妙なものを見つけた。小さい王冠のようなものだった。人形にかぶせるような。

「おっと」

 ヘルヴィムはそれを僕の手から取り上げると、ポケットにしまった。人形遊びなんてするようには見えないが。

「まあまあ、人の家をそうやって荒らすのはあまり上品じゃあないね」

 先程、紙袋を落としてしまった負い目があるので強く出られなかった。

 ヘルヴィムは紙袋をテーブルに置くと、どっかりと椅子に座った。

「それで? 今日は何しに来たんだ」

 不機嫌そうに彼は言った。

「あ、いや、記憶喪失を治すって話、どうなったかなと思って」

 ヘルヴィムは一瞬ぽかんとした顔をしたが、すぐになにか思い出したように指を鳴らした。

「ああ、あれね。うんうん。出来てるよ、出来てる」

 忘れていたな、こいつ。まあ、良い。出来ているなら。

「なんだ? その手は」

 ヘルヴィムに向かって差し出したてを見て、彼は鼻を鳴らした。

「まさか、タダで貰おうっていうんじゃあないだろうな」

「金はないぞ」

 ヘルヴィムが笑った。

「金なんていらん。この島でどうやって使うんだ」

「じゃあ何だ」

「俺のために働いてもらおう」

「船を作るんだったか」

「そうだ。この島から出たいんだ」

「わからないなあ」

「何がだ」

「この島から出たいっていうのがさ。なんでだろうなって。僕はこの島から出たくないけどな。なんでもある。平和に暮らしたいという願いが叶った」

「願いが叶った、ね」

 含みのある言い方だ。

「じゃあ、あんたにとってこの島は何なんだ」

 馬鹿にされたように感じて、ムキになってしまった。

「俺にとってこの島は……牢獄かな」

 寂しそうな顔をするヘルヴィムを、なぜだかどこかで見たことがあるような気がした。

「わかるよ」

「なにが?」

 ヘルヴィムが鼻を鳴らす。怒っているのだろうか。彼が何を考えているのかわからない。

「人生っていうのは牢獄みたいなものだと思うんだ。世界に囲われた部屋の中でしか生きられない。そこから外に出たいと願うことさえ許されない。もし、外に出てしまったら、二度と戻れない。恐ろしくて、自ら牢獄の中にとどまるんだ」

「君はとどまった?」

 僕はとどまったか?

 また頭痛がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ