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あの奇妙な薬を塗りたくられて一日寝ていたら、痛みはすっかり消えた。腫れていた指も、血が出ていた左足の腿も、傷跡さえなくなった。一体、何の薬なのかあとで教えてもらいたい。
まだべとつく体を触っていると、家の入り口から猫の声が聞こえた。顔を上げると、黒猫がこちらを見ていた。なぜだか懐かしい感じがして、寝台から降りて近付こうとすると、猫は踵を返してしまった。触りたかったな、と残念な顔をしていると、入れ替わりに女医が顔を見せた。
「大丈夫?」
いたずらっぽい顔で、僕を見る。
「怪我、良くなったね」
言いながら、彼女は僕の足を勢いよく叩く。パン、と乾いた音が家に響いた。
「痛っ……怪我人なんだから、もっと優しくしてくださいよ」
僕の抗議を聞いているのかいないのか、彼女は鼻歌を歌いながら家から出て行った。
あの薬のことを尋ねるのを忘れた。