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仏に逢うては仏を殺せ 父母に逢うては父母を殺せ  作者: よねり


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「すまないね」

 ひとしきり泣くと、僕はぐっしょり濡れたハンカチをシモーヌに押しつけた。

「いいのよ」

 シモーヌはハンカチを受け取ると、腰につけている小さな鞄に押し込んだ。

「妻に会いたいんだ」

 僕が言うと、彼女はまた、哀れむような目で僕を見た。

「それはできないの」

「どうしてだ。僕の妻なんだぞ」

「向こうは違うって言ってる」

 壁を思い切り殴った。木の板なのに、びくともせず、茅葺きの屋根が少し揺れた。握った拳は、年寄りのようにしわしわではなかった。いつもの見慣れた手だ。

「一体どうして……」

 また泣きそうになった。どうあっても、彼女の記憶を取り戻さねばならない。ヘルヴィムがうまくやってくれると良いが。

「落ち着いて。きっと大丈夫よ。だから、事態が良くなるまでここにいて」

 彼女の励ましも空虚で僕の胸を打つには弱かった。

「邪魔するよ」

 家の入口から入ってきたのは村長だった。僕が起き上がろうとすると、村長は手を上げてそれを制した。

「すみません、わざわざ」

 村長はだいぶ年が行っているのだろうが、垂れたまぶたから時折覗く鋭い眼光は、抜け目のない感じがした。

「良いんだ。君が向こうに行ったと聞いたときから事情は理解しているつもりだ」

 村長は天使の村のことを知っているのだろうか。訊いてみたいが、シモーヌもいるし、あまり自分の行動を話さないほうが良い気がした。少なくとも、彼らの真意を知るまでは。

「きっと、君も持て余しているのだろう。どうだ、儀式をして漁に出てみるか」

 思いもよらない申し出だった。いつかは、と思っていたがこのタイミングとは。

「漁に行くかどうかはわからないが、この村で暮らしてゆくなら、役割が必要だろう」

 村長なりに気を遣ったのだろう。まだ、この村で生きて行くかどうか決めあぐねていたが、何もしないよりはマシだろう。何もしない時間は、心を狂わせる。

 村の仲間として迎え入れられていたことが、少し嬉しかった。この島から出るという選択肢は、僕の中から少しずつ薄れていった。

 儀式は、何やら大仰なものだった。孔雀のように、色のついた羽を体中に張り付け、大きな焚き火の周りで何かよくわからない踊りとともに呪文らしきものを唱え、最後に海水をかぶった。これによって、大地と、空と、海とに僕の魂を刻んだということらしい。コレで僕は、正式にこの村の住人になったのだ。

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