表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仏に逢うては仏を殺せ 父母に逢うては父母を殺せ  作者: よねり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/78

27


 しまった、村長の家がどこにあるのかわからない。適当に歩いていれば、誰か顔見知りに会うだろう。それに、そんなに広い村ではない。村の中心あたりの大きい家を探せば、それが村長の家に違いない。

 宴をした広場では、小さい子供たちが遊んでいた。その中にルネとデカルトとスピノザの姿もあった。スピノザは地面に何か絵を描いていた。きっと絵を描くのが好きなのだろう。ヒッポカンポスの絵も上手だった。ルネとデカルトはその横で人形遊びをしていた。

 妻も人形遊びが好きだった。小さい頃、買ってもらえなかった反動だと彼女は言っていた。やたら家中を人形で埋め尽くし、人形の服や家を自分で作るのが好きだった。女の子というのは、いくつになってもそういうことが好きなのだろう。

『だから、子供にも……』

 不意に妻の声が頭に響いた。

 頭が痛い。また、この頭痛だ。

「大丈夫?」

 いつの間にか、ルネが心配そうに僕を見上げていた。

「具合が悪そう。ねえ、ママ」

 ルネの隣に、長い煙管をくわえた女が立っていた。彼女の母親だろう。どこかで見た顔だが、どこで見たのか思い出せない。彼女は水を汲みに行っていたらしく、水の入ったバケツを持っていた。

「顔が赤いわ。熱があるのかしら」

 女が僕の額に手を当てる。

「やだ、冷たい」

 彼女はすぐに手を引っ込めた。

「あなた大丈夫? ルネ、シモーヌを呼んできて」

 ルネは頷いて駆け出した。

「大丈夫ですよ」

「全然大丈夫に見えないわ。あなた、ちゃんと自分の名前は言える?」

 何を行っているんだこの女は。僕は平気だ。

「僕の名前は……」

 不意に頭痛が襲ってきた。頭がぼんやりして、自分の名前が思い出せない。

「僕は40歳の物理学者で……それで……」

「本当に?」

 女が驚いた声を上げる。耳障りで、顔をしかめた。

「あなた、その姿で40歳なの?」

 何を言っている。どう見たって、僕は――。

 彼女が持っていたバケツを覗き込むと、20歳くらいの頃の僕の顔があった。

「なんだこれ」

 思わず声をあげた。

 そんなはずはない。僕はちゃんと博士課程まで出て――。

 博士論文のテーマは何だった?

 査読は誰が?

 何故か記憶がおぼろげだ。

「本当に大丈夫?」

 ブリキのゴミ箱でもかぶっているみたいに、女の声が反響して聞こえた。

 頭が痛い。

 もう一度、バケツを覗く。今度は10歳位の男の子が見えた。

「ひえ」

 僕は腰を抜かしてしまった。

 自分の掌を見てみる。砂だらけで、シワシワだった。年寄りの手だ。

「あなたはどこの誰?」

 妻の声が聞こえる。顔を上げても、彼女の姿はない。

「本当に結婚なんてしていたの?」

「どこだ、どこにいる?」

 突然、聞こえるはずのない声に反応した僕に、周りの人々は怪訝な顔をした。それでもかまわない。彼女の手がかりがあるなら、幻聴でも何でもいい。妻を探したい。

「都合良く思い出を書き換えていない?」

 足がもつれて転んでしまった。頭を打った拍子に、幻聴が聞こえなくなった。

「記憶が……記憶が……」

 今度はうなされるような自分の声が、他人の声のようにずっと聞こえていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ