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仏に逢うては仏を殺せ 父母に逢うては父母を殺せ  作者: よねり


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「どうだった?」

 レストランを出ると、ヘルヴィムが楽しそうに僕に尋ねる。その顔は、僕の答えがわかっていて訊いている顔だった。その顔が見たくなくてそっぽを向いた。ここからでもモノリスが見えた。

 僕は何も答えなかった。ヘリヴィムだって、肝心な質問には答えないのだ。僕だって、彼の質問すべてに答える義務はない。答えてくれないなら、いないのと変わらない。この村ごといなくなってくれても良いとさえ思った。

 僕のムスリとした顔を見て、満足そうにヘルヴィムは頷く。

「どうだ。この島から出たくなったか?」

「いいや、少しもならないね。むしろここが天国のようにさえ思えるよ」

 皮肉っぽく言って舌を出す。

「天国ね」

 思っていた反応と違った。彼は少し寂しそうな顔をすると、僕の方に手を回した。

「まあ、いいさ。君の人生だ。君が決めると良い」

 ははは、とヘルヴィムは笑った。

 空は雲ひとつ無い晴天だ。まだ太陽は真上にある。何度見上げても太陽は動かない。

 上を向いて歩きながら、僕はヘルヴィムに尋ねた。

「あんたらに食べ物を恵んでくれるって言う神は、この村にいるのか?」

「ああ、そうだ。この村の住人は誰も畑を作ったり獲物を狩ったりしない。ただ、神の恵みだけで暮らすんだ。そうして、日々の糧を与えてくれる神に感謝しながら生きるんだ」

「へえ、まるで……」

 聖書の中の話だな、と良いかけて言葉を止めた。

「その神はどこにいるんだ?」

 神がいるのだとしたら、天使を殺してほしかった。そう願ったら、神は手始めにこの天使の村から滅ぼすだろうか。天使同士で殺し合わせるというのも良いかもしれない。それくらい、天使に対して憎しみを持っていた。

「それは……」

 ヘルヴィムが何か言おうとしたとき、目の前を歩いていた村人が、後ろからやってきた村人に槍で貫かれた。あまりにも突然の出来事で、僕は「ひっ」と声を上げてしまった。その後、槍を刺した方は、刺された方に剣で首をはねられた。一瞬の出来事だった。双方とも、その場に倒れ込んで絶命した。二人共、人間と同じ、赤い血を流していた。

「な、何が起きたんだ」

 僕は腰を抜かしてしまった。眼の前で人が消滅するのは見慣れていたつもりだったが、こんな風に血を流して死ぬのを見たのは初めてだった。生臭さが、僕の鼻をついた。

「何が起きたんだろうな」

 ヘルヴィムは醒めた目で二つの死体を見下ろす。通りの誰もが、まるで当たり前のように、突然、次々に殺し合いを始めた。

「お、おかしい。こんなのおかしい。いきなりどうしたっていうんだ。あんたらは人間なのか? それとも天使なのか? 一体何者なんだ? どうしてこんなことをするんだ? 僕をからかっているのか?」

 ヘルヴィムの脚にしがみつくようにして、僕はまくしたてた。彼はそんな僕を、死体と同じ様に無感情に見下ろした。

「そういう君だって、自分が何者かわかっているのか?」

「僕は……人間だ」

 決まっているだろう、と続けたかったが、語尾が風にかき消されてしまうくらい小さかった。

 血生臭さと惨状に、今食べたばかりのパンとスープが胃の中からせり上がってきた。たまらずその場に嘔吐する。

 苦しい。視界に映る全ても、嗅覚に感じる悪臭も、舌先に感じる痺れも、耳に聞こえる流血の音も、手に触れる無機質な死も。

 この村はおかしい。早く哲学者の村に帰りたい。あの場所は居心地が良い。僕の居場所はあそこなのだ。もう、この島の秘密なんて知らなくても良いから早く帰りたかった。

「パパ」

 再び、あの声がした。恐る恐る振り返ると、先程建物の中にいたあの子供だった。

「お、君の子供か? 君の子供なのか? 水臭いじゃあないか。僕に黙っているんなんて」

 ヘルヴィムは楽しそうに僕を突く。

「し、知らない。だいたい、僕には子供なんていないし」

「この子は君のことをパパと呼んでいるぞ」

「パパ」

 ほら、と言ってヘルヴィムは指差す。

「やめろ、やめてくれ」

 僕は耳をふさいだ。

 それでも、子供は何か言いたげに、僕に向かってパクパクと口を動かす。

 子供の背後から斧が飛んできて、頭を砕いた。彼女の血と脳髄が飛び散って僕の体にかかった。

 僕は耳を塞いだまま、大声で叫びながら走り出した。

 僕に子供なんていない。

 なぜなら、僕は子供を作れない体質なのだから。

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