第779話 魔境
ちょっと前までは性欲の強いエルーちゃんが僕に依存していたと思っていた。
男としてはそういうのも甲斐性のうちで、その事自体は嬉しいと思っていた。
でも実際にエルーちゃんに依存していたのは僕の方だった。
エルーちゃんが性欲が強くなってしまうのは僕の心の闇を吸収してくれていたせいで、そのエルーちゃんと手を繋いでいないと僕は自分で自分の首を締めるような悪夢を見てしまうらしい。
「それでも、学園に通っている場合ではないでしょう?」
「どうして……」
「既に、ソレイユから救援が来ているよね?」
涼花さんには既に報告が来ていることだろう。
「南の国の神樹より更に南。誰も近づかない魔境。ここから魔物が溢れだしている頃だと思うけど、違う?」
「……お察しの通りだ。だがまだ魔境から溢れ出てくる魔物は弱い。親衛隊の面子だけで問題ないだろう?」
「僕の記憶を見たのに、忘れたの?あの魔境は、ただの魔群帯じゃない。あそここそ、疫病の発生源だよ」
「……?疫病が闇魔法の一つであることは分かっているが、発生源とはどういうことだ?あれは確か、不死王リッチが発生させているのではなかったか?」
千年の研究の末、疫病の発生と不死王リッチが関わっていることは聖女院も掴んでいたらしい。
だから正確なことは定かではないものの、一旦の聖女院の見解としては「疫病はリッチが発生させている」ということになっているらしい。
「リッチを何千体と倒した僕が保証する。疫病の魔法をリッチが使ったことがない。いや、そんな魔法はリッチでは使えないんだ。シルヴィが最上級魔法を使えないようにね」
シルヴィは雷魔法の使い手だが、神獣と違うのは彼女は大天使であって神じゃないことだ。
だから彼女は単独では最上級魔法を使えず、あくまで降神憑依で女神エリス様を降ろした時のみ使えるらしい。
「それにもしリッチが疫病の魔法を使えているのであれば、真っ先に使って人々を殺し、魔力の糧にするはず」
「確かにそうだな。リッチが発生させていないのであれば、疫病はどうやってやってくるんだ?もし魔境から来ているのであれば、南の国の民が必ず疫病にかかるはずだ。それなのに、世界各地でランダムな場所から広まる……」
「僕の記憶を知っているなら、リッチの発生源もまた世界各地ランダムであることは知っているでしょう?」
ゲームで国防をするときにそれはそれは大変だったからね。
それにこの世界に来てからも、リッチはどの国で出現するか分からず、
「ランダムに出現……ま、まさか……転移魔法か!?」
「そう、二年前魔王が突如聖国王城に発生したのも、各地でリッチが突如発生したのも、魔境奥地から転移魔法で転移してきたからなんだよ」
このことに気付けたのは最近だから、涼花さん達とうまく共有できていなかった。
魔王もリッチも転移させたのはおそらく、アイツだろう。
「そして疫病は、魔境に居た疫病まみれのリッチがその空間ごと転移してきたせいで、魔境の空気やリッチの着ている衣服や装備品から、人や動物に感染させたってことになれば、全ての辻褄が合うよね?」
そう、そしてリッチが疫病を持ってきていたのは、復活したリッチのリスポーン地点が、魔境だったからだ。




