第778話 悪夢
学園へ行くエルーちゃん達を見送った後、涼花さんと自室で話す。
「本当に学園に行かなくて大丈夫なのか?」
「勉強は問題ないよ」
「流石に万年首席の君にその心配はしていないさ。だがエルー君だって、本当は違うことを聞きたかったはずなんだ」
「違うこと?」
「デモンストレーション当日まではエルー君達とソラちゃんはお互いに干渉しない約束だったが、それが問題なかったのは昼間に学園で会えるからだろう?この二週間、エルー君と一切会わないつもりなのか?」
「一切会わないわけじゃないよ。流石に学園が休日の時は会うし……」
たとえ僕の方が我慢できても、エルーちゃんの方が我慢できないだろう。
エルーちゃんの『癒快』は僕だけでなく、触れた相手の心なら誰でも癒す。
だから別に特段負の感情が大きい僕なんかと一緒にいなくとも、エルーちゃんは他人と触れているだけで徐々に発情ゲージを貯めてしまうことだろう。
それにもし他人に触れる機会がなくとも、二日に一回はするくらいのエルーちゃん本人が持っている性欲もある。
「ソラちゃんは、何も分かってないな……。エルー君が自分の心配をするわけないだろう?エルー君に触れていなくて心配なのは、ソラちゃんの方だよ」
「僕?」
「本当に平日の間エルー君と離ればなれになって、大丈夫だと思っているのか?」
「そりゃぁ平気だよ。涼花さん、僕はエルーちゃんほど性欲があるわけじゃないよ……?」
「それは疑わしいが……」
なんでよ。
「そうじゃない!平日の間、ソラちゃんの心の傷を和らげる手段がないことを、分かっているのか!?」
まぁ、それはそうだけど……。
「それの、何が問題なの?」
「っーー!」
ダンッ!と机を叩くと、僕の目の前に涼花さんの美麗な顔が来る。
「ソラちゃんは、悪夢を見ているとき、自分がどうなってるのか知らないのか!?」
「えっ?うん、知らないけど……」
「……エルー君は敢えて言わないようにしていたようだな。自分の両腕で!首を!締め上げていたんだよッ!私が全力で止めなければ、死のうとしていたんだっ……!」
……それは、僕の想定していなかった答え合わせだった。
こちらの世界に来て、何度も見た悪夢。
その悪夢を見ているときは、確かに寝苦しいとは思っていた。
だが実際には自分で苦しくさせていたとは、なんと愚かな行為をしていたことか。
いや、寝ている時とは、それほどまでに無防備であるということなのだろう。
「行きすぎた負の感情は、呪いになる。あれは、そういう類いのものだ。エルー君と触れない期間、君がそうなる可能性は大いにある!」
姉の積年の恨みは、呪いとなって僕を蝕んでいた。




