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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第776話 即死

「お待ちください、ソラ様」


 エルーちゃんが止めに来る。


「どうしたの?」

「その……こんなこと、私が言うのも烏滸がましいとは存じておりますが……」

「気にしないで、言ってみて」

「私でも、足手まとい……ですか?」

「……」


 聞かれるとは思っていた質問だけど、答えは変わらない。


「エルーちゃんに嘘はつけないか。少し寮まで付き合ってくれる?」

「はい」




「どうぞ」


 護衛の涼花さんと三人で寮の自室まで来ると、エルーちゃんがお茶を出してくれる。


「ありがとう」

「いえ、こちらこそ冷戦中でしたのにすみません……。ですが、どうしても気になってしまって」

「冷戦中って……」

「昼間は仲良しじゃないか。それに私だって、ソラちゃんを独り占めする気はないよ」

「……まぁ、呼び方!変えられたのですね!それに、ソラ様も涼花様に敬語を辞められたのですね!」

「ああ、二人の前ではそうすることにしたんだ」

「いや、今はその話はいいから……」


 そうやって改められると、ちょっと恥ずかしい。




「ソラ様が頑なに私達婚約者に伝説のグミまで与えてステータスを上げられているのは、もうすぐ魔物の叛乱(スタンピード)が起きると踏んでいらっしゃるのですよね?」


 お風呂上がりにパジャマ姿でアザラシのぬいぐるみさんを抱いている僕の髪を魔法で乾かし、解いてくれていた。


「僕が考えた結果で話すけど、二人ならきっと足手まといにはならない……とは思ってる。でも、二人には行かせられない」

「流石に理由を聞かずに納得することはできない」

「……私達が、死ぬ可能性が高いからでしょうか?」

「うん……」


 腕に込める力を強めると、アザラシから身が出そうになってしまった。


「魔王も四天王も海龍も、今までは余裕があったんだ。僕がきちんとうまく立ち回れば、皆も自分も死ぬことはないだろうという自信があった。だって、あのゲームをやり込んで、彼らに負けたことなんて一度もなかったから」


 そう、ゲームでは慎重タイプの僕だから、負けるのが怖かった。

 だからカンストするまで寄り道をしまくり、回復アイテムやその他のアイテムをたくさん集めて、そのついでにレベルやステータスを上げていた。

 アイテム集めに魔人や魔王とは何度も戦っていたし、海龍もスフィンクスを使って戦い方の情報を集めていたから戦い方のコツもある程度分かるつもりだった。


「でも、今回は違う。二人を連れていけば、死ぬ可能性がある……」

「ですがまさかお一人で行かれる気ではないですよね?」

「いや、一人で行くつもりだけど……」

「は……?」

「お、お一人で戦争をしかける気ですか!?」

「戦い方がわかる人は、僕の記憶を共有したこの三人しかいない。だから確かに二人にもついて来てほしいって本当は言いたいんだ。でも、私の懸念事項ももう分かってるでしょう?」

「『即死魔法』、でございますね?」

「うん……」


 そう、僕が何よりリッチの親ともいえるあの存在(裏ボス)が放つ即死魔法。

 不死王リッチはシルヴィと同じレベル90。

 そしてリッチの使用する即死咆哮は自分よりレベルの低い相手にしか通じず、だからレベルが90以上にさえなってしまえばただのダメージ1の咆哮に成り下がり、エルーちゃん達でもステラちゃんでもリッチは安全に処理できる。

 まぁ999体から同時にダメージ1の咆哮を放たれればそれは死ぬかもしれないけど、それはまた別の問題だ。


「僕の知識だとあれはレベル150。即死魔法の即死条件が同じとは限らないけど、眷属憑依をした状態の僕なら、憑依解除しなければ死なない可能性が高い。でも、二人は……」

「だが、眷属憑依がないソラちゃんでも勝てていたはずだ。それに勝率も八割と悪くない」

「確かうち一割が即死魔法、残り一割が即死コンボでございますね」

「即死が回避できるのが僕と神獣だけな以上、僕が神獣達とシルヴィを連れて行くのが一番無難で勝率が高いはず。ゲームでそうしてきたようにね」

「確かにそうすれば九割ですが、それでも残り一割で負けてしまうのですよね?」

「それはもう仕方ないことだよ」

「ですが、私達が共に戦えば、勝率も上がるのでは?」

「その通りだけれど、二人には一緒に来てほしくない。特に、エルーちゃんだけは……駄目なんだ」


 人を好きになるというのは、苦しみや嬉しさを分かち合うと同時に、不安も分かち合ってしまう。

 僕は今、不安なのだろう。


「……最上級闇魔法の存在ですか?」

「うん。与えたダメージが一番大きいプレイヤーへ返ってくる死の呪い……」

「『"一番大切なもの"を殺す魔法』、ですね?」

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