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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第774話 不当

「――出場選手の、講師ですか?」

「ええ。またお願いしたいのですけれど。人を見た目で判断しないということを教えるための教材として、シエラ様は適任ですから。挫折を味わわせることも含めて、他校の誘いに乗ったのですからね」


 僕をなんだと思ってんだ。


「うーん、どうしましょうかねぇ……」

「えっ……?」

「クロース辺境伯家はお金払い悪いですからねー」


 いつも断り辛くして僕に無理難題を押し付けてくるアナベラ学園長に、今日こそはNOと言うことにした。


「な、何を……」

私の天使(マリちゃん先生)をあんな安月給で雇ってるなんて、今まで知りませんでしたから。聖女院クラフト研究室の給料の100分の1もないじゃないですか」


 僕とマリちゃん先生、二人とも同じ聖女学園の講師ではあるものの、僕は生徒のため事務仕事やクラス担任の仕事を免除されている。

 そればかりか生徒だから僕は非常勤講師、マリちゃん先生は正職員。

 それなのに僕とマリちゃん先生の給料は100倍くらい僕の方が高い金額が振り込まれている。

 マリちゃん先生との夜伽の後にこの話を聞いて不思議に思った僕は、妊娠するまで戦闘実技の特別講師をしていたサクラさんにも額を聞いたところ、どうやら僕達が聖女であるというだけで不当な手当が出ていたのである。


「天下の聖女院と比べられましても……。学園長とはいえ、いち辺境伯家がそんなに高い給料では雇えません」

「でしたら、どうして私の給料には色を乗せられるのですか?」

「聖女様へのお布施が他の者より高いのは当たり前です」

「別に二倍くらいでいいでしょう。昨年ならともかく、今年はサポートだけのただの非常勤講師ですよ?」

「貴族は聖女様の施しに対して、どれだけお布施出来たかで評判が変わるのです。ソラ様は、クロース家に泥を被れと申すのですか!」

「いやそれ、おもいっきし聖女を政治利用してるじゃないですか……」

「どこの貴族も、裏ではそうしているのですよ」

「そもそもこれは聖女院を介していない私と学園との雇用契約なんですから、額で色をつける必要がないって言ってるんですよ。私、これ以上お金増えても使い道ないですし。そんなんだからマリちゃん先生に見限られるんですよ」

「は……?」

「ああ、まだ話していませんでしたか。マリちゃん先生は聖女院で雇うので、今年で学園を辞めさせますから。今からきちんと引き継ぎしてくださいね」

「そんな、横暴な……!」


 『聖寮院』の講師はまだまだ必要だ。

 募集すれば集まるとはいえ、不当な待遇の講師達なんかがいれば、引き抜きも検討している。


「マリちゃん先生、辞めることに凄く前向きでしたよ。最高の教育を謳っているのに、お金を出し渋るからです。今年は公式賭博や売店の件で儲けがあるのに、先生方にもっと飴をあげるべきでしたね」


 クロース辺境伯家は『金の亡者』と名高い。

 その理由は辺境伯の妹であるアナベラ学園長が聖女学園長を、辺境伯が魔道具商会長を、そして辺境伯の娘ライラ様が出版社長をしているところからそう名付けられたのだろう。

 他の貴族はそう揶揄するが、彼らクロース辺境伯家にとってそれは悪評などではなく、むしろ(ほま)れだとする考えが強いらしい。


 だけどアナベラ学園長が学園長をしているのは、別に彼女が優秀だったからでも、商人としての才があったからでもない。

 聖女学園の学生だったサクラさんの担任を三年間務めたというその功績を買われただけの名誉職だった。


「教育者はまだまだ必要ですから、試しに誘ってみましょうか?ミカエラ先生とか、付いてきていただけそうですよね」


 信仰心が強いミカエラ先生なら、きっと付いてきてくれるだろう。


「くっ……卒業とともに、全て持っていくおつもりですか!?この学園は、ソラ様のお祖母様である楓様がお創りになられて、100の聖女様が支えてきた学園でございますよ!」


 聖女を脅してどうするよ……。

 サクラさんに講師をやらせたり、僕に確変を期待したり。

 僕がアナベラ学園長のことを気にくわなかったのは、彼女がしていたのが単なる聖女任せの運営だったからだ。


「そのトップがこれだから、人が離れていくのですよ。ここ数年で、聖女学園での教育は大きく進歩を遂げました。その証拠に、今年の武術大会と魔術大会は、何もしなければきっと聖女学園がさらっていくことでしょう。でもそれは、私が聖女学園の生徒達を変えたからではありませんよ」


 僕は昨年から魔法学の臨時講師をしてはいたものの、その時から変わったのは生徒だけではない。


「各教科の講師の皆さんは私がソラであることを知ってから、授業をより良いものにするために私に助言を求めてくださいました。先生方は少しでも多くの知識を吸収して生徒に昇華すべく努力していた姿を見ていなかったのは、あなたくらいなものです」


 学園生の成績が上がっていたのは成績上位の人達だけではない。

 それを相対的にあげていったのは、時間がない中で知識を蓄えた先生方の努力と研鑽の賜物だ。


「私がただのお飾り学園長だということは認めましょう。でしたら、ソラ様が代わりをなさっていただけるのでしょうか?」


 この人は……最後まで考えを改めるつもりはないのか……。


「別に私がやってもいいですが、そうしたら私は一日でミカエラ先生に学園長の座をお譲りしますよ」

「なっ……!?」

「私が一日だけ学園長をしてすぐ譲れば、その不自然さに皆さんは気付くはずです。『これは、アナベラ学園長を失脚させるためだけに一日だけ学園長になったのだ』と……」


 僕にもやるべきことがある。

 これ以上学園長の身勝手に付き合ってはいられない。


「そうなれば、貴族としてのあなたの立場はどうなるでしょうか?いえ、それよりあの『金の亡者』のクロース辺境伯家でのあなたの立場は、どうなるでしょうね?」

「わ、私を脅して、どうするおつもりですか?」

「何を為すべきかは、先程から申しているでしょう?未だ変わっていないあなたを変える為なら、脅しもしましょう」


 僕は頬に人差し指を当て、考える素振りをする。


「そういえば聖女学園へは私や聖女院からの毎月の寄付金もございましたね。ですが能力や実績に見合った額が不当に支払われていないようですから、来月から寄付もやめておきましょうね。これは学園長の至福を肥やすだけのようでしたから」

「なっ……!?そんな事実はありません!」

「ええ、そう信じていますよ。ですが実績がないのでしたら、あなたもクロース辺境伯家(金の亡者の家の者)として、実績を作ればよろしいのではありませんか?」


 彼女もいち教師だった時期はある。

 だから少しは努力をするということを思い出せばいい。


「ああそう、講師は辞退しますが、代わりに親衛隊を派遣しますね。それから、臨時講師ももう必要ないですから、今月限りで辞めさせていただきます」

「なっ……!?一年間、魔法学の補佐をするというお約束でしたでしょう!?」

「その必要がなくなったんですよ。あなた授業もまともに見ていないのですね。今やミカエラ先生は生徒からの魔法の質問に苦もなく答えておられます。これも物覚えの良い生徒だけでなく、努力を怠らなかったミカエラ先生のお陰ですね。これで私に支払うお金が浮いたじゃないですか。良かったですね」


 まぁその浮いたお金をこうして講師に還元しろと脅しているわけだけど。


「私はこれから忙しいので、もうあなたには構っていられませんから。では、ごきげんよう」

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