第77話 理解
無理やり解錠した扉を閉めまた内側から鍵をかけると、アール王子はベッドの上で体操座りをしていた。
「だ、大聖女さま!?どうしてここにっ!」
「あなたの悩みを聞きに来ました」
「我に悩みなど……」
「お互い、話を聞いてくれない家族を持つと苦労しますね……」
「っ!まさか……」
「……私も、あなたと同じですよ」
そこまで言うと、アール王子はぽつぽつと話し始めた。
「……幼い頃は、我も妹も扱いは変わらなかった。しかし妹は可愛らしく賢くなってくると、父上も母上も徐々に我に関心がなくなっていった……。そして妹が先に婚約者が出来たことを境に、私は何をしても怒鳴られるようになったのだ……」
王子は頑なに僕を見つめずに話を続けていた。
「我も婚約者が出来れば、怒鳴られることもなくなるだろうと思った。だが、我は美女を見るとあの顔をしてしまうのだ……。そのせいでこの国の貴族という貴族に縁談を断られ続けてきた……」
恐らく王が怒鳴る理由は、婚約者がいるかいないかではないだろう。
そういう勘違いをしているところも含めて、王子はとても僕に似ていた。
「だが、出来損ないの我と大聖女さまが同じなどとは到底思えな……」
「まずは、その認識から改める必要がありそうですね」
僕はドレスに手をひっかけて脱ぎ始める。
「だ、大聖女さま!?どうして服を脱ぐ!?」
「これから見せることは、王様にも内緒ですよ」
僕相手でもその顔になってしまうのなら、期待させてから男だとばらしてがっかりさせることで、少しは女性に耐性ができるんじゃないかと思ったのだ。
服を全部脱いでアイテムボックスにしまったとき、想定通りにアール王子は得も言われぬ顔をしたが、同時に想定外の出来事が起こった。
後ろの扉からカチャリと音がすると、扉を開けて中に入ってきたのは顔を真っ赤にしたメイドのエドナさんだった。
「だ、大聖女さま!まさか殿下と浮気……」
「あ……」
もう、お婿どころかお嫁にもいけなくなった気分だよ……。
固まる二人を見てかえって冷静になった僕は、素早く男装に着替える。
まさか合鍵を持っていたとは……。
というか僕、鍵を抉じ開ける必要なかったよね……?
「エドナさんにもばれてしまいましたか……。僕は男なんです。幻滅したでしょう?」
「い、いえ……そんなことは……。勘違いして突然部屋に押し入ったこと、誠に申し訳御座いません……」
「いえ、そのお陰でいいことに気付けたので構いませんよ」
そう言うと、エドナさんは俯いた。
「僕も王子のように、家族ではお祖母ちゃんを除いて誰一人として僕に愛情を向けませんでした。お祖母ちゃんがいなくなると止める人は誰もいなくなり、僕を金稼ぎの道具としてしか見なくなりました。僕が思いどおりに動かないと罵声と手が両方出てくるので、思い通りに動くしかなかったんですよね……」
「大聖女さま……」
「あなたの家族は理解を示してくれなかったようですが、あなたにはここに理解者がいるじゃないですか」
「殿下……」
「エドナ……」
「王子、どうでしょう?話を聞いてくれない家族とは縁を切り、あなたを理解して愛情をくれる人を新しい家族にしてみるというのはいかがですか?」
「だ、大聖女さま!?」
「二人ならお似合いだと、僕は思いますよ」
「だ、だが……王家は貴族としか結ばれることを許されてはいないのだ……」
それを聞いた僕は再びアイテムボックスに入れたドレスと入れ換えて早着替えをする。
「なら……私がお願い、してみますよ?都合のいいことにどうやら向こうも私にお願いがあるみたいですし、こちらのお願いを断るようならお二人を私の養子にして王族と切り離すことも出来ると思います」
半ば誘導尋問のようだったが、残りは二人の問題だ。
「今大切なのは、お二人がお互いにどう思っているかです」
そこまで言うと、王子は覚悟を決めた顔つきになった。
「エドナ、私に付いてきてくれるか?」
「はい、殿下!」
お互いに誓いを済ませる。
「王子ならそんな心配は必要ないと思いますが、愛情をくれる人はいついなくなるか分かりませんから、大切にするんですよ」
「承知している。大聖女さま……貴殿もまた、我の理解者だ。大聖女さまさえ良ければ、兄貴と呼んでも構わないだろうか?」
「えっ、いいですけど……私が男なのは内緒ですよ」
「なら普段は姉貴と呼ぶことにしよう!姉貴、ありがとう!」
……なんだか複雑な気持ちになるあだ名を貰ってしまった。




