第767話 対抗
七転び八起きでも、最後に起きてさえいれば、それでいいのだろう。
そう思わせてくれたのは、エルーちゃんのお陰だ。
家族の些細なことで気持ちが揺らぐのは僕の良くないところだ。
でも結局僕は、そういう生き方しかできない心になってしまった。
僕の負の感情が増えてしまったことで、エルーちゃんもそれだけ発情しやすくなってしまったのだろう。
昨日は何回もしてしまったから、身体に負担をかけてしまった。
「んぅ……」
いつもは僕の方が起きるのが後で、寝顔を見るなんてあまりできない。
可愛い婚約者の寝顔を見ているだけの時間が、なんと愛おしいことか。
「そあさま……はっ!」
「エルーちゃん、おはよ」
「す、すみません!寝ぼ……んっ」
「ちゅ……寝坊じゃないよ。痛くない?」
「はい。ソラ様のお陰で……。ですが、その……」
エルーちゃんの視線を追うと、シーツに付いたシミに気付く。
くまさんベッドのシーツが服みたいになっているから、くまさんが重症を負っているみたいになってしまっている。
「名残惜しいけど、綺麗にしなきゃね」
「ふふ、そうですね」
清浄をかけて部屋を出る。
「――学園対抗大会、ですか?」
「はい。先程学園長から聞かされたのですが、今年は五国の学園の代表選手でトーナメント形式の試合をすることになったそうです」
それは聖女学園で毎年開かれる武術大会と魔術大会に、他の学園の代表選手を出場させるという旨のものだった。
「前例がなかったというのに、どうして急に……」
「お金が大量に動いたそうですよ。がめついクロース辺境伯の個人資産にならないだけマシかもしれませんが……」
アナベラ学園長やライラ様の出版社など、クロース辺境伯家は手広く稼いでおり「金の亡者」と揶揄する貴族も多いらしい。
ただ今回は賄賂というわけではなく、その資金でもっと大会の規模を大きくしてほしいという意図だろう。
そしてその末席に自国の代表選手を参加させたいという目的が各国にはあるのだろう。
聖女学園としては他国に恩を売るだけでなく、他国に知名度を上げるチャンスでもある。
「個人戦と、学園対抗チーム対抗戦ですか……」
「トーナメントも人数が増えて一日で出来ないですから、個人戦ですら2日に分けて行います。それだけ大規模にもなれば、売店や賭博で学園も潤いますし、アルバイトの参加者も多く必要になりお金が必要な学生バイトの皆さんも稼ぐことが出来るでしょう」
「対して各国の代表選手にとってすれば、聖女学園の武術大会や魔術大会はスポンサーである聖国や近隣諸国の貴族の目に留まるチャンス。お互いに益があるということですか」
「主催である私達聖徒会からすると、頭の痛い話ですけれどね……」
今年で卒業だってのに、最後にこんな面倒事が舞い降りて来るなんて、本当にツイてない。
「梛の国の東雲都立学園、西の国のローレル騎士学園、南の国の神樹国立学園、北の国のオーロラ魔術女学園……」
「オーロラ魔術女学園以外、共学と男子校ではございませんかっ!?」
「そう、そこなんです……」
ローレル騎士学園は男子校、他二つは共学。
「問題はそれだけじゃありません。各学園の代表選手はしばらく聖女学園で預かることになったそうなんです」
「つまり、短期留学ということですか!?」
「はい、そうなります」
「「「……」」」
女性の園に、他校の男性がやってくる。
面倒事の予感しかしないこの一大イベントに、僕は頭を悩ませることになるのだった。




