第764話 試料
「むぅぅぅぅ~~~~っ!!」
マリちゃん先生を抱き締めて婚約者の皆に威嚇する。
「可愛い」
「キスの雨を降らせたい」
「怒ってる姿も、天使のようですね……」
「可愛いもの×可愛いもの……これが神秘か」
涼花さん、鼻血垂れてるよ……大丈夫?
「……皆して可愛い可愛い言って……!皆の方が可愛いくせにっ!僕だって、怒ったら怖いってこと教えてあげますからね!」
ビシッ!と指を指すと、手持ち無沙汰なマリちゃん先生もビシッと指を指してきて、どや顔が愛くるしくて全てを許してしまいそうになる。
「……では明日から婚約者の皆さんには、修練のメニューを十倍にしますね」
「ヒィッ……!?」
「笑顔で恐ろしいこと言わないでください!」
どや顔でビシッとしていたマリちゃん先生が急にビクビクしてて、そのギャップも愛らしい。
「構わないよ」
「ソラ様のお役に少しでもたてるのでしたら、頑張ります!」
カンスト勢二人は覚悟が決まりすぎていて、僕の脅しが全くといっていいほど効いていない。
とはいえ彼女達にとって、あとはひたすら技や魔法のレパートリーを増やしたり、その練度を上げることや、それらの組み合わせや戦術を考えるくらいしかできることはないんだけど。
「まあまあ、ソラ君。せっかく本番ができることになったのだから、それに興じるのも悪くなかろう?」
「……この魔道具、僕はまだ信用したわけじゃありませんよ」
「……婚約者全員で騙したことは悪かったよ。だがこの避妊魔道具の効果は聖女院クラフト研究室の副室長であるボクが保証するものだ。実験の記録も取っているから、見たければ持ってくるよ」
エレノアさんが嘘を付いていないことくらいは顔をみればわかる。
前世で悪意をぶつけられまくった僕にとって、悪意があるかないかくらいは分かる。
「でもその実験、誰で試したんです……?」
「ははっ、まさかソラ君に嫉妬されるとは思わなかった。嬉しいよ」
「別に聖女院の人を信用していないからそう言ったわけじゃありませんよ。仮にももと王女で、僕の婚約者ですし。それに聖女院の人達がそんな人達じゃないことくらいは知ってます」
悪意のある人間はそもそも聖女院に勤められない。
何故なら面接の時にエリス様にその魂を覗かれるから。
「でもたった数人の被験者の結果だけで100パーセントだと断定するのは信用なりません。僕は見たものしか信用しませんから」
「つまり、見れればいいのだろう?」
「まあ、そうですけど……」
「ならば」
「試さないと、ですね!」
「……!ちょっ、待っ……!?」
こうして僕は大量の試料のために何十回とフルマラソンを走ることになるのだった。




