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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第762話 避難

「じゃあ、建てましょっか」


 みんなで一通り施設を見て回ってから、入り口に戻ってアイテムボックスから『絶縁の塊』と『精霊の雫』を取り出す。


「こちらは……?」

「施設はこのクラフトアイテムで作ります。『絶縁の塊』はクラフト時に消費した魔力量以下の攻撃力を無力化するもので、『精霊の雫』は魔力を注ぐことで混ぜたアイテムで自由な形施設が作れるんです」

「あっ……もしかして、聖女学園の多目的ホールと同じ素材でしょうか?」

「当たり!」

「でも、どうしてこちらをご使用に?」

「魔王やリッチは神出鬼没。だから聖女院の人達や孤児院の子達、それに市民が避難できる場所が必要だと思ったんだ」


 そう、『聖寮院』を作ることに積極的になっているのは、いざというときの避難用のシェルターとしての役割を担ってくれるからだ。

 ただの別荘としてあるだけなら有効活用したいと思って教育や福祉の仕組みを導入することにしたけれど、本命はこっちだ。


「以前多目的ホールを作った時は1000しか魔力を注げなかったけど、今ならエレノアさん達クラフト研究室のお陰で魔力を最大1万以上まで使うことが出来るようになった。私の知る限り5000以上のダメージが出る魔物や魔族の攻撃はないから、6000くらい注げば少なくとも聖女以外壊せないでしょう?」

「ソラ様は、そうなる未来が来ると?」

「うん。近い未来に、魔王よりも理不尽なものが必ず来る。『聖寮院』を建てることを急がせているのは、避難施設として必要だからだよ」


 この理不尽を耐えるには、人々が一人一人強くなって、魔物なんか脅威でなくしてしまうのが一番楽だと思っていた。

 でもそうなると今度は人々同士で争う火種にもなりかねない。

 前世ほどではないにしろ、力に溺れてしまう人は出てくるだろう。

 だからこそ信頼できる人達にだけ力を託し、あとは守るしかないのだろう。


 『絶縁の塊』に『精霊の雫』を滴し、そこに魔力を注ぐ。

 『精霊の雫』が僕の想像した通り、ほとんど元の『カエデ』の造りを維持しつつ、少し増設するような形にした。

 次第に6000くらい注いだところでやめると、見事に元の神殿のような施設が出来上がる。


「ところで、我々を『ギフター』として使えば一万以上の誰も壊せないものが完成すると思いますが、どうして最大まで注がないのでしょうか?」

「いや、誰も壊せなかったら、増設も移設も出来ないでしょ。いつか壊したくなったときにどうすんの……?」

「あっ……それもそうですね」


 いつかこんなものが必要なくなる世界になってくれることを切に願いつつ、僕は聖国の聖寮院『カエデ』の別荘区画、孤児院区画、一般開放区画の3つの巨大絶縁施設を立ち上げた。


「お疲れ様です、ソラ様」

「はぁ、流石に疲れるね……」


 魔力が自然回復するのを待っていられなかったので、魔力譲渡の『ギフター』としてエルーちゃんとソーニャさんの二人にも協力して貰った。

 二人にも事前に魔蓄の指輪で魔力を蓄えて貰っていたから、スムーズに作業を終えられた。


「すごぉい!」

「おっきくなった!」

「今日からここがみんなの家だよ。どんなに魔法や剣の練習をしても傷付かないから修繕費もかからないよ」

「スゲー!」

「内装はお任せしますね」

「はい。この度は誠にありがとうございます、大聖女様」


 ソーニャさんが卒業するまで、暫くは院長に管理人のお仕事の一部をお願いすることになっている。


「広くなってるぜ!」

「中見て回ろ!」


 子供達の楽しそうな声が聞こえてくるのを耳にしていると、ふっと意識が遠退いていく。

 ソーニャさんが尻尾で受け止め、そのまま僕をだっこしてくれた。


「お疲れ様、ソラ様――」

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