閑話205 戦利品
【??視点】
「アレがまたやられたか……」
毎回作るのにどれだけの魔力と時間がかかると思っている……。
今回は入念に作戦を練って、西の育った海龍まで使ったというのに……。
全員無傷で殺られるなど……。
「忌々しい聖女の分際で……。アレが女神エリスの最終兵器というわけか……」
海龍は魔物を餌にして魔力を貯め大きくなる魔物だが、あれほどまで魔力を蓄え養殖させるのにも千年はかかるというに、それを数分で無に帰すだと……?
「大聖女ソラ……ふざけるのも大概にしろ……!」
悉く我輩の狙いを看破して潰してくる。
天然の魔物を共食いまでさせているのは痛手であるというのに、そうまでしないと我輩の眷属が身動きできないほどに弱点が周知され、対策されはじめてしまっている。
神界大戦では辛くも勝利を収め、こうして戦利品を頂いたというに、今していることといえば世界の果てに身を潜めてコソコソとしていることばかり。
何故勝利した我輩がこのような仕打ちを受けねばならぬ……!
だが女神エリスとて、この世界に直接干渉することは難しいはずだ。
同じ存在である以上、我輩にもその忌々しい制約はあるが、抜け道はないわけではない。
「クク……そろそろこの戦利品も、馴染んでくる頃だろう……」
一万年前、まだ聖女とやらが居なかった時代に女神エリスとの戦争をしかけ、何千年も戦争をした。
女神勢力の守っていた「ヒト」を人質にしたことでやっと手に入れた神体。
女神が生命体を大事にしていることなぞ盲点であったが、それが分かってから大戦はこちらに大きく傾いた。
何せヒトを殺していれば天使達が身を呈して庇ってくるのだから、殺し放題だ。
聖女もまた同じ。
一番弱いものを叩く、これこそが女神勢力、聖女勢力を挫く戦術よ。
あの聖女ソラにだけはそれすら通用しないが、我輩とてただそれを黙って見ていたわけではない。
あのエリスが「特注品」と言うだけあってしきりに我輩の魔力を拒んでくるが、あんな俗物の神体とは違い、我輩の依り代に相応しい。
「ッ……まだ拒むか……。だがそれももうじき……魔力が溜まれば、この均衡も破れ、全てが我輩のものになる……」
魔王のヤツもあんな大した脅威にもならん聖女一匹も殺せず、ろくな働きもせずにくたばりやがって……。
我々はあの忌々しい聖女ソラを殺せさえすれば、もう世界を統べられるというのに……所詮は喋れぬ獣、魔力を集めて不死身になれるだけのただの機械人形というわけか。
「魔物の犠牲は思いきったことをしたが、お陰で魔力は着実に溜まりつつある。あと少し……あと少しだ……!」
そう……我々はただ時間を稼ぐだけでいい。
この神体が馴染み、聖女達を殺す算段を手に入れるその日まで、我輩は姿を現さず隠れているだけだ。
「多少の魔力は減るが……これで最後だ。時間を稼いでこい、我が眷属よ」
暗黒空間から現れた骨の固まりはカタカタと自らを組み立て、のそのそと歩みだしていく。
幾千の時を経てようやく実現する長い作戦が、ようやく最終局面に入ろうとしていた。




