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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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閑話204 免罪符

(ひいらぎ)(りん)視点】

「テッポウユリやヒメユリ、スカシユリあたりがよろしいかと」

「……そうなんですね」

「あら、ごきげんよう、リン様!」

「レティシャ夫人、ごきげんよう」


 この挨拶にも、やっと慣れてきたところだ。


「お元気になられて良かったですわ。本日は何を?」

「実は……聖女学園の正門までの道脇に百合の花で花壇を作ることになったんです」

「リン様は園芸部の部長でございますから」

「あれは祭り上げられただけだよ……」

「まあ!素敵ですわ!ユリだけでも100種類はあると言われておりますから、聖女院(こちら)みたく組み合わせて絵を描くなんてできると夢が広がりますね」

「ちょうどそのお話を庭師の皆さんとしていたんです。正門から噴水広場まで百合の花壇に挟まれたとして、赤から黄色、そして白に徐々に変わっていって、噴水広場は真っ白な百合で囲われているとどうかなって」

「こちらが完成予想図です」

「まぁっ!こちらの絵はリン様が?」

「は、はい……。こんな落書きで恥ずかしいですけど……」

「とんでもない!素敵ですわ!リン様は絵がお上手なのですね!」

「私たちと庭師の方々で散々絶賛いたしましたのに、リン様は自信がおありにならないようでして……」

「でも私、昔美術の授業で習った水彩でしか描けないですし……」


 画材なんて買う余裕なかったし、デザインは演劇部に居た時に衣装案出すために必要だったから少し覚えただけ。

 迷走していた中学時代、演劇部に入る前に美術部の体験入部をしてみたが、油絵をやらされ、重ね塗りする手法や不透明な絵の具に慣れず結局入るのを断念した。


「リン様、こちらの世界では芸術の授業など普通はしないのです」

「特異な才能でもない限り、平民は安定した職業を望みますからね」

「えっ、でも貴族ならそういうのしているんじゃ……」

「貴族はあくまでも鑑賞するための知識や知恵を身に付けているだけで、貴族が皆絵を描く勉強をしているわけでは御座いませんよ」

「もちろん芸術に秀でた貴族の方もいらっしゃいますが、そういった方々はごく稀なのです」

「こんな儚げで美しい絵は美に疎い私でも素晴らしい絵であると分かりますもの」

「作者がリン様なのですから、きっとすごい値段で売れるのでしょうね」

「私もいただいたら毎日眺めているでしょうね……」

「そ、そんなことしたら本職の方々に失礼ですから!」


 完全に有名税で儲けているだけ。


「で、でもそんなに褒めてくださるのでしたら……。これは図案なのでお渡しできませんが、今度なにか描いたら皆さんにお見せしますね」

「でしたら水彩絵の具を買い足しましょう!」

「そ、そんなハードル上げないでよ、東子ちゃん……」

「東子様も、そんなにプレッシャーかけてしまうと、できるものもできなくなってしまいますよ」

「リン様は仰られてから行動に移すまでにとてもお時間がかかりますものね」

「も、もー!東子ちゃん!」

「うふふ。人には人の良い速度というものが御座いますわ」


 やっぱりレティシャ夫人や庭師の方々と話していると楽しい。


「ところでリン様。巷では大聖女様の婚約者様の募集が始まっておりますが」

「うっ……」


 その話は……。


「リン様は立候補なされないのですか?」

「聖女様同士でご結婚なされることは、前代未聞のことですよ!」

「わ、私なんかじゃ……相手にもされないですよ」


 もう十人以上いるらしいけど、皆さん綺麗だし凄い才能のある方々だと聞いている。


「何をおっしゃいますか!こんなに愛らしいリン様が見劣りするなどあり得ません!」

「でも、乗り遅れたのは事実ですし……」


 東子ちゃんの言う通り、私は何をするにも行動に移すまでが遅すぎるらしい。


「でしたらあっと驚かせるようなサプライズ告白をなされば良いのですよ。何せ()()()()なのですから、きっとどんな告白になっても、話題性は抜群ですよ!」


 前代未聞は、何をしてもいいことの免罪符にはならないでしょう……。

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