第758話 口減
右手にマリちゃん先生を、左手にステラちゃんを。
攻撃力が下がる代わりに防御力が上がりそうだ。
これぞ『両手に花』の欲張りセット!!!!
僕の笑顔は止まることを知らない。
「ちなみにマリちゃん先生を西の国の管理者に選んだのは偶然じゃありませんよ。理由はいくつかあるって言ったでしょう?」
「ま、まさか……セイクラッドはおしゃれの国。マリエッタ先生に可愛いお洋服を沢山着せ替えるために……」
「……どうしてそっち方面には全面的に信用ないの?」
いや、マリちゃん先生に可愛い服着せてみたいのは確かだけどさ。
「処女を失わせておいて、信用があるとお思いで?」
うっ……それを言われるとつらい。
「エルーちゃん、やっぱり初めてがエルーちゃんじゃなかったこと、根に持ってる……?」
「いいえ。私はそこまで狭量ではございません。ですがマリエッタ先生にとって、初めてだったことには違いありません。それを『事故で』だとか『最低だ』などと言い訳してしまうのは、マリエッタ先生に失礼ではございませんか?」
そっか、僕の方こそマリちゃん先生を女性として見ていなかったのか。
「……そうだね。マリちゃん先生には痛い思いして申し訳なく思っていただけです。私で気持ちよくなっているマリちゃん先生はとっても可愛かったですよ」
「ソ、ソラ様っ……!」
「……帰っていいでしょうかぁ?」
「付いてきたいって言ってきたのはステラちゃんの方じゃないですか……」
「姉が先にリア充になるなんて思ってなかったのでぇ……」
私怨をこっちに振り撒かないでよ。
「こっちだってぇ、師匠が急に義姉になるって聞かされてぇ、戸惑ってるんですからねっ?」
「……はっ!」
そうじゃん。
長女のマリちゃん先生と結婚するってことは、あの小人族の20人家族全員が僕の義弟や義妹になるってことで……!
ああ、一年後にはあの一家からお義兄ちゃんと呼ばれて……
「うふ、うふふふふ……」
「また壊れてるぅ……」
「ステラちゃん、私のこと……お」
「私は断固として師匠と呼びますからねっ!」
「……スン」
「そんな死んだ魚のような顔しないでくださいよぉ……」
まあ確かにステラちゃん、小さくて師匠と呼ばれてるからちゃん付けしてるけど、あくまでも年上だからね。
ツンデレステラちゃんからソラお義兄ちゃんと呼ばれることを想像するだけにとどめておこう。
嫌がらせでソラお義姉ちゃんって呼んできそうだけど、この界隈ではそれくらいじゃご褒美になってしまいます……!!
「と、ともかく、西の国にした理由はステラちゃんとマリちゃん先生なら分かるでしょう?」
「セイクラッド……ああもしかしてぇ、お父さんですかぁ?」
「ご名答!」
そう、二人のお母さんは南の国にいるけれど、お父さんは西の国で服飾屋さんとして出稼ぎに出ているらしい。
今でこそ20人家族のうち半分くらい成人した人がいるものの、それまでは父母含め22人もの家族を養っていたため、大量の養育費が必要だったそうな。
ステラちゃんは初対面の時に「口減らし」で家を出たと嘘をついていたけれど、実際大家族でお金は足りず、上の子達が働き出すまではあまり裕福ではなかったのは確かだったのだそうだ。
実際には自分の光魔法がクラン『教会』に狙われていたことを悟って北国まで逃げてきたからだが、なぜ口減らしを嘘の理由にしたかといえば、姉であるマリちゃん先生こそが口減らしと出稼ぎ要因で学園で働くようになったからだった。
聖女学園ではSクラスに居れば学費も寮費も免除だし、そのまま教師になってしまえば稼ぎ頭にもなれるから、家族にとっても彼女にとってもいいことずくめだったのだろう。
それに小人族は一度に沢山産まれる性質があるため、口減らしとして養子に出したり出稼ぎに出すことは種族的に茶飯事らしい。
こんなに可愛い存在がある意味で買い叩かれるようなことになってしまうのはなんだか悲しい。
まあそれはさておき、マリちゃん先生が西の国に居ればお父さんと交流できるだろうというのが僕の考えだ。
どのみち『聖寮院』の別荘区画にはワープ陣を置くつもりだから、『聖寮院』間のワープで南の国にも帰省できるしね。
「さ、着きましたよ。久しぶりの『奈落』ですね。こんにちはー」
洞窟の入り口にいた門番さんに話しかけると、ファッションなのかよく分からない世紀末のような格好をした門番さん達は直角90度の最敬礼をしてきた。
「「こんちゃっす!ソラの姉貴!」」
僕、何かした……?




