第754話 年増
「いや、あの……ご、誤解ですっ!私は世界一可愛いとは言いましたが、それは結婚したい可愛いという意味ではなくて、こう、可愛くて癒される存在だという意味で……」
「つっ、つまりソラ様はっ、私のことが好きではないとっ……」
「違います!とても尊敬してるし好きです!でもそれは、恋愛としての好きじゃなくて、好感が持てるという意味の好きってだけで……!」
僕が自分で招いたことだが、確かに「世界一可愛い」なんて公言して連呼していれば、そのような誤解が生まれてもおかしくないかもしれない。
「私は生徒一人一人をしっかり見てくださるマリちゃん先生をとても尊敬していますし、大好きな先生です。でも私が先生に抱いている可愛さは小さいぬいぐるみが可愛いとか、そういった感情です」
「でっ。でしたらっ……!そっ、そんな私がソラ様のことっ、恋愛的に好きだと言ったらっ、ソラ様は受け入れてくれますかっ!?」
「えっ……?なっ、ええっ!?ど、どうして……!?」
僕からマリちゃん先生への好き好きアピールはしていたけれど、マリちゃん先生は誰に対しても抱っこされていたし、僕のことが好きなんて素振りは全く見せなかったのに……!
「ソーニャさん達に言われてからっ、私も恋愛について考えるようになったんですっ……。ソラ様はいつも私のこと抱えて優しく撫でてくださいますっ。私はそれが心地よくてっ……気持ちよくてっ……いつしか物足りなくなっていたことに気付いたんですっ!」
もじもじしながらも精一杯の気持ちを小さなからだで表現しようとするマリちゃん先生。
「私はっ、ソラ様が好きですっ!これまで恋愛というものをしてこなかった私ですがっ、これは恋だってっ、そう思いますからっ!」
「マリちゃん先生……。でも私は男で、それを受け入れてしまえばただのロリコンになってしまいます」
「性別なんてっ、関係ありませんっ。それに私の方がお姉さんなんですからっ、ロリコンなんてことにはならないはずですっ!」
確かにマリちゃん先生は長女で、次女のステラちゃんは今21か22くらいだったはずだから、それより年上ということになる。
確かアンネ室長と同い年なんだよね。
神や神獣は置いといて、婚約者の中では一番年長だ。
「こっ、こんな年増っ、嫌いですかっ?」
逃げ道がどんどん塞がれていく。
……そういえば僕はどうして断る理由を作ろうとしているんだろう?
「そ、そんなことないです。マリちゃん先生は、本当に後悔しないですか?」
これを受け入れれば、卒業してもマリちゃん先生と会う口実ができるのに。
「絶対にしませんっ!」
「んっ……」
「んむっ……」
マリちゃん先生がまっすぐ見つめる僕の唇を奪ってきた。
大胆なマリちゃん先生に戻ってくれてよかった。
「分かりました。エルーちゃんに話しに行きましょう」
意気揚々と朱雀寮に帰ると、エルーちゃんとソーニャさんが玄関で待っていた。
「ただいま。二人はどうしたの?」
「ソラ様にお話があったのですが……ソラ様の方こそ何があったのでしょうか?」
「お持ち帰り?」
「なっ!?どうしてそんなに信用ないんですか……!」
「でもっ、お持ち帰りされたのは事実ですしぃっ……」
「まあっ!おめでとうございます!ソラ様念願のマリエッタ先生ですね!」
なんで僕念願なのよ。
聞くまでもなく受け入れてくれたのは流石エルーちゃんだけど、僕がマリちゃん先生を囲うことが決まってたみたいに言わないでほしい。
僕は1ミリたりともそんなつもりはなかったよ。
「これで正真正銘のロリコン……」
ロリコンに正真正銘なんてあるの……?
「わっ、私はっ!この寮で一番年上ですよっ!」
「えっ……フローリアさんより年上……?」
「そうですっ!だからもっと敬……あっ」
どや顔して墓穴を掘るマリちゃん先生だった。




