閑話201 馴初め
【橘涼花視点】
夏のある日。
「本日は、婚約者であらせられる皆様ともっと親密になりたく親睦会を開かせていただきました」
お茶会と称して大きな円卓の机があるお部屋をお借りしてエルー君から呼び出しがあったのは教皇龍様、シルヴィア様、エレノア様、ソーニャ君、セラフィー君、マヤ君、神流君。
私とエリス様を含め、計10名のソラ様の婚約者の方々との親睦会だそうだ。
「親睦会……」
「集めたとて、何を語るんだい?」
「そもそも私、涼花以外のことはあまりよく知らないわ。聖徒会に入っていたわけでもないもの」
「マヤ君、少なくともエルー君のことは知っているだろう?」
「ソラ様、エルーと一緒じゃないとシてくれない」
むしろ、知らないエルー君が同席していたのにマヤ君もよく寵愛を受けようとしたなと思ってしまうが。
「お互いに多分、夜のことしか知らないもの」
「『うぐっ……』やめろ貴様ら……その言葉は、主に一番効く……」
そういえばこの中でソラ様のご寵愛を受けていないのはエリス様だけになるのか。
女神エリス様はシルヴィア様に憑依しないと現世には降り立てず、普段は天庭という神と聖女と天使のみが行き来できるところにいらっしゃる。
私たち婚約者ならまだしも、天庭で不埒なことをすれば聖女達に知れ渡るから、ソラ様は「天庭では絶対イヤ」と言っていた。
世界を渡らせるくらいに愛しておられるのに、一人だけ寵愛を受けられないというのは空が曇ってしまっても致し方ない事だ。
「確かにマヤ様の仰る通りですね。では皆様自己紹介と、ソラ様との馴れ初めを教えてくださいませんか?」
配膳が終わるとエルー君はトレーをアイテム袋にしまい、皆に礼をする。
その仕草一つ一つがいじらしく可愛い。
「『じゃあ婚約者になった順で紹介しなさい』」
「はい。私はソラ様専属メイドで聖女学園三年Sクラスのエルーシアと申します。ソラ様とは専属メイドとして初めてお会いしましたが、その時になんて可愛らしい殿方なのだろうと思いました。そしていつも私を助けてくださる心優しいお方であらせられます」
「エルーは初めからソラ様が殿方だって知っていたのね」
「は、はい。その……男性である証明をなさるために裸を見てしまいまして……」
まさかあんなに可愛い聖女がまさか女性ではないとは誰も思わないだろう。
あの見た目で男である証明なんて、下半身を見せるくらいしかなかったのだろう。
まあ眷属憑依が出来るようになってから、どちらにでもなれるソラ様にとって性別というものはさほど重要でもなくなっているようだが、当の本人は男の子扱いして欲しいそうだ。
そうやって一生懸命になっているところがまたとっても可愛らしいところだ。
「聖女院第100期聖女親衛隊隊長、橘涼花だ。私は小さくて可愛いものに目がないのだが、ソラ様のことは御披露目式で見た時に一目惚れだった。その後シエラ君として二年間聖女学園で交流があり一時期はシエラ君のことも好きで悩んでいたが、サクラ様に同一人物であると聞かされたときには目を丸くしたな」
「光の神獣、教皇龍ハープストドラゴンだ。主はこの世界で最強だし、我のことをうまく使ってくれるから大好きだ」
「『女神エリスよ。ソラ君のことはカエデから聞いて知ったの。カエデから気にかけて欲しいと言われてしばらく見ていたら、気がついたら恋しちゃってたの。』女神エリスの使い、大天使シルヴィアだ。私は主と心を共有しているので、割愛させてもらう。『なによ、一目惚れだったくせに!』あ、主……!余計なことを言わないでください!」
恋の話になると、いやソラ様のお話になると女神も大天使も一人……一柱の女性なのだと思えてくる。
「聖女院クラフト研究室副室長のエレノアだ。ソラ君とは聖女学園の同じ寮生だったが、王家関連で二度救われてね。初めは親友で我慢していたが、もう好きになるしかなかった」
「聖女学園三年Sクラス、Sランク『双刃』のソーニャ。ソラ様、孤児院のみんなと私、疫病から助けてくれた。だいすき」
「聖女院伝道師室長、マヤよ。ソラ様とは魔術大会中に魔法が使えなくなったことを話したら、魔王四天王の不死王リッチが原因であることを突き止め、私の命を救ってくれた。それどころか、進路に悩んでいた私にお誂え向きの仕事があるからとスカウトしてくれた。だからソラ様のことは好きよ」
私もそうだが、皆ソラ様に命を救われて、ここにいる。
「聖女学園三年Sクラス、聖影のセラフィーです。お義母様には毒親から引き離して養子にしてもらい、更には神獣鳳凰様の加護があることを見破り、進路や取り柄がなく悩んでいた私を二度も救ってくださったのです。ですからお義母様のことは、その……大好きです」
「聖女学園二年Sクラス、聖影の神流と申します。ソラ様には魔王四天王、インキュバスの陰謀で操られていた私達を止め、私達嶺家と東の国を救ってくださいました。ですからその、ソラ様のことはお慕いしております……」
ソラ様がこの世界にいらしてから二年半。
その間にこれ程の人々を救い、今なお新しく救おうとしておられる。
私達婚約者が好きになってしまうのも、仕方のないことなのだと思う。




