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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第747話 地雷

 婚約者自慢していたら、とてつもない地雷カウンターが返ってきた。


「『憑依解除』……サツキさん、ここは外ですよっ!?」

「……はっ!?」


 僕が男だってことは、聖女院の中での秘密だったのに……。


「ご、ごめん。驚きすぎて、つい……」

「ソ、ソラ様……殿方だったのですか……!?」

「は、はい……」

「う、嘘でしょう……?だってあなた聖女……」

「はい。エリス様に聖女として連れては来られましたが、私は男です。こんな形で告げることになってしまい、すみませんでした」

「っ……嫌っ!」


 男と聞いた瞬間、頭を下げる僕から離れるサンドラさん。

 その挙動は僕達聖女には見に覚えのある行動だった。


 サンドラさんは以前、ソフィア女王の元婚約者であるハイエルフのアークさんにハーフエルフであることから「欠落」と蔑まれ、怒鳴られていた。

 そしてこの間怒鳴って失禁するほどの恐怖を与えてしまった僕もまた男だった。

 その二回でサンドラさんは、男性恐怖症になりかけていた。


 今までの人達がたまたま優しかったお陰で、僕は男の聖女でも、男子禁制の女学園に男がいたとしても、女子会に男がいても歓迎してくれていた。

 でもそれは普通は異常なことで、女性しかいないところに突如男が居たなんて知られたら、恐怖を覚えても何ら不思議はないのだ。


 そう、これこそが本来あるべき正しい反応であるはずなのに、僕が男らしくなさすぎて、今までその反応を得られなかった。

 でもいざその反応が来たとき、それは僕の社会的な終わりを意味していた。


「わ、私……」

「い、いやぁっ!?近寄らないでっ!?」


 ああ、これはもうダメだ。

 僕は知っている、たったひとつの些細な地雷を踏み、一瞬にしてすべての信用を失った感覚。


 もう僕達は師匠と弟子でも、聖女と女王でも、知り合い同士でもない。

 女性に、その敵と見なされたものだ。


 これは僕が招いた最低な出来事。

 だから責任を取るのは僕一人でいい。


「サンドラちゃん、落ち着いて!」

「衛兵!早くその男を……追い出しなさいっ!」

「っ……」


 そう、一刻も早く、この場を立ち去って――


 僕が離れようとしたとき、サツキさんが僕の手を取って引っ張ってきた。


「っ……?」

「男だってだけで拒否するのは勝手。でもね、この涙の意味を知らないまま追い出すんなら、私も黙っていないわよ!」


 無様にもこの程度の出来事で泣いていた僕を指差して、彼女もまた涙していたのだ。


「ソラちゃんはね!自分の家族に無理やり女装させられて、金を稼がせられたのよ!!自分の趣味でもないのに、その見返りも一銭も貰っていないのにっ!!今でもエリスさんに半ば脅迫されてこんな姿にさせられて、聖女に仕立て上げられて自分の性別もろくに口外できない!そんな性別を圧し殺された相手に、あなたは男だから追い出せって言ったのよ……?」


 どうしてそんなことまで知られているのか分からなかったけれど、そんなこと正直どうでもよかった。


 ああきっと、サクラさんもこうやってこの人に助けられたのかもしれない。

 握りしめてくれた手が暖かくて、他人に守られる僕が情けなくて、でも心はぽかぽかしていた。


 初めて僕の境遇を全てきちんと理解してくれた。

 言葉にしてくれた。


「うぁ……っ」


 僕は今、嬉しいんだろうか?

 それとも悲しいんだろうか?

 涙の所在が曖昧になっていくも、それは一向に止まることはなかった。

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