閑話200 聖女会
【下野皐視点】
「こんな素敵なドレス、私には合わないわよ」
「ふふ、サツキ様はもう少し自分に自身をお持ちになられた方がよろしいですわ」
休日なんてなくて、オシャレなんてほとんどしてこなかった私にとって、こうして毎日メイドさんにお世話してもらうことは違和感でしかないのよね。
「急がずマイペースで好きなことしていいのよ」なんてエリスさんには言われちゃったけれど、急に仕事から放り出されて「好きなことしなさい」なんて言われても、この世界のことそこまで詳しく知らないんだから、やりたいことなんて簡単に見つけられないわ。
だからこうして好き勝手に連れ出してくれたり口実作って呼び出しでもしてくれない限り、私は部屋に籠って同人小説書くか仕事するかの二択しかないのよ。
「ほら、鏡を見てくださいませ!」
私の専属メイドになる予定だったマイリーナさんが整えてくれると、枝毛ひとつもない完璧な私がそこにいた。
衣装もポピーが刺繍された高そうなものを、この私が着こなしているのが不思議なくらいだ。
まるで写真加工した「120%の状態の私」を見ているかのようだった。
「サツキ様は素材が揃いすぎているのですから、生かすだけで殿方でも貴婦人でもイチコロですわ」
「そ、そうかしら……?それにしても、あの『聖なる雫』って、ヤバイ代物ね……。しみもそばかすも油も落として常に潤ってる感じするし、それで3年なにもケアしなくていいなんて、馬鹿げてるわ……」
「聖女院での流通は全てソラ様からいただいたものですね。本来はあれ一瓶で豪邸が建つそうですよ」
「ひぇっ……」
私、知らないうちにソラ君に借りができてる……!?
「あら、来たわね」
「さっちゃんおはよー」
「こんにちは、真桜ちゃん、桜ちゃん!」
「皐お姉ちゃん、紹介するわね。柊凛ちゃん。皐お姉ちゃんの前に来た聖女よ」
年上にお姉ちゃんって呼ばれるの、なんか慣れないなぁ……。
いや、それよりもその娘の一歳児にさっちゃんって呼ばれてる方が謎か。
真桜ちゃんはネット知識豊富だから桜ちゃんより話がしやすいのよね。
「は、初めまして。柊凛と申します」
「まぁ、綺麗なコ!下野皐よ。よろしくね!」
「サツキさんこそ、素敵です」
人形さんみたいに綺麗な子ね。
「世界的に有名な男の娘動画配信者と、ファッションブランド社長の娘に、こんな美少女って、私以外の聖女スペックおかしいでしょ……」
「いや、私こそこんなでかいおっぱいは今まで見たことないわよ……」
「喋る度に揺れる……!?まるでおっぱいが喋ってる……!」
真桜ちゃんにはませすぎで賞を贈呈しよう。
「あ、あの……サツキさんも天先輩のことご存じなんですか!?」
「当たり前じゃない!私の守備範囲はショタだもの!」
「むしろ知らないのなんてママくらいのもんよ」
「いや、あんなに有名なのに知らなかったなんて、どこの化石人類よ……」
「そ、そんなに言わなくてもいいじゃない……」
ん?
今一連の会話に何かおかしなことなかったかしら?
「リ、リンちゃん……?ソラちゃんとはどのようなご関係で……?」
「あっ、ええと……その、天先輩は中学の時同じ学校の先輩だったんです」
後輩属性まで付いてんの!?
ちょっとエリスさん!
私……どう考えてもモブ聖女じゃないですか!




