第742話 現地
「もらって、って……」
「学園の貴族の友達、言ってた。貴族の別荘は療養するためだけに使うものじゃない」
「確かにそうね。療養や休暇を過ごすだけでなく、愛人との逢瀬や夫婦の営みを家族に邪魔されずにするのが別荘の役割」
「マ、マヤ様まで何言ってるんですかぁっ!?」
なんだか話の流れがおかしな方向に行っている。
「つ、つまりソラ様が私達を管理人に指名したということは……」
「愛人、側室……もしくは現地妻」
「ち、違……!そういう目的で誘ったんじゃ……」
「あら、誘ったことは認めるのね」
「揚げ足を取らないでくださいっ!!」
マヤさん、どんどん意地悪になっていくな……。
「私は、ソラ様が好き」
「っ……」
「番になるなら、ソラ様がいい」
「私もソラ様には興味があるわ」
「わ、私もソラ様のことは……お慕いしております」
に、逃げ道を塞がれた……!?
「……も、もぉーっ!エルーちゃんに相談してからですよ!」
押しに弱いの、何とかした方がいい気がする。
このままだと、知り合いが全員婚約者になりかねない……。
「――構いませんよ?」
「うっ……」
「そもそも、私に確認などなさらなくても、ソラ様は悪意を見抜かれる御方。そのソラ様が好まれる方を私が嫌いになるはずがありません」
「でもエルーちゃんが嫌いでなくとも、向こうが嫌いであることはあるでしょう?いくら私が好きで向こうも好きでも、一番はエルーちゃんだから。たとえエルーちゃんの望みが重婚を受け入れることだったとしても、私はそれは絶対に譲らないし、そこで妥協はしないから」
重婚だって、エルーちゃんの望みじゃなければ僕はエルーちゃんだけを愛するつもりだった。
その想いだけは今でも変わらない。
「私はエルーちゃんも愛してくれる人とじゃないと付き合う気はありませんからね」
「エルーシア様との親愛の証を示せと?」
「……つまりエルーシアとキスすればいいの?」
「「ええっ!?」どうしてそうなるんですかっ!?」
「私はエルーが好き。発情期の時、一緒に発散してくれる。弱点全部知られてる。んっ」
「ソーニャさん……んっ」
その後も順にエルーちゃんと三人がキスをするという良くない流れができてしまった。
「さぁ、今度はソラ様の番ですよ……」
「う、うぅぅ~……」
エルーちゃんを断る理由にしようとした僕も僕だけど、エルーちゃんが断るわけがないから、最初から断ることなんてできなかったのかもしれない。
結局、僕は彼女達に別荘の管理人を任せることを条件に、婚約を結ぶことになった。
「話はまだ終わってない」
「えっ……」
「ソラ様はもう一人向き合うべき人がいる」
まだ増えるの!?
「出てきて」
「……」
ソーニャさんが左を向くと、そこからすぅっと透明化が解け、現れたのは顔を真っ赤にしたセフィーだった。




