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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第740話 野望

 あくる日、聖女院の客間で待っていると、ノックの音がした。


「どうぞ」

「失礼します」

「私達を集めて、一体何をするの?」

「マヤ様、お久しぶりです」

「ええ。あなたはソーニャに、神流だったかしら?」

「次席の天才氷魔法使い様に覚えていただけているなど、嬉しい限りでございます」

「そういう神流も、次席」

「行き過ぎた謙遜は毒よ。聖徒会長になるのなら、こうなっては駄目よ?」


 僕を指差して言わないでよ……。


「実は三人に、折り入ってお願いがあるのです」




「聖女院の別荘の、管理者……?」

「管理者というよりは、主人でしょうか?管理をするの自体は、働いている皆さんと、執政官もいらっしゃいますから」

「ソラ様。そういうのは、貴族の方が向いているのでは?」

「いえ、私はお三方が適任だと考えています」

「それは、何故?」

「別荘の内部の話はどこまで聞いていますか?」

「ワープ陣の設置と聖女様のお泊まりになる御屋敷が一つ。そして併設したところに学舎と食堂をお作りになると」

「はい。ですが残り一つの施設は、孤児院を用意しようと思っているんです」


 エルーちゃんから『家族』の話を聞いて、僕はひとつ思い出したことがあった。

 それは、お祖母ちゃんが遺した孤児院『カエデ』だ。


「孤児院……何故?」

「私はお祖母ちゃんのメイド、ダイアンさんの日記を読んで初めて知ったのですが、今でこそ聖国の孤児院『カエデ』しか残っていませんが、お祖母ちゃんは各地に孤児院を作り、たくさんの人々を救い、そして教育を施してきました。私はそんなお祖母ちゃんを尊敬しています」


 聖女の日記の内容を語ることは、時に過去の聖女の名誉を傷つけることに繋がりかねない。

 ジュリアンさんとの約束を思い出し、一応聖女結界を貼る。


「でもそんなお祖母ちゃんも、寂しかったんだそうです。私とケンカ別れして、こちらの世界にきたお祖母ちゃんは家族を失い独りだった。だから各地に孤児院を建て、そこでたくさんの家族を作ったんです」


 もう自分が子供を作れる歳ではないことを知っていたお祖母ちゃんは、だからこそ家族という愛情で心の穴を埋めることが難しかった。

 だからお気に入りであった東国にいた孤児の獣人達に『嶺』の名字を与えて、名前まで付けた。

 お祖母ちゃんは、仮初でもいいから家族と呼べるものが欲しかったんだ。


「私にも家族はいましたが、家族からは除け者にされており、この世界にきた時にはもう頼れる人は誰もいませんでした。孤児ではないですが、頼れる人がいないことの辛さは少しは分かります。だから、同じ境遇で頼りに出来る人がいなかった人達の『家族』になりたいと思ったんです」


 傷を舐め合うだけの偽善と言われてもいい。

 初めはたまたま救えるだけの偽善からでも、そこから大きな波を僕は作ることが出来る立場だから。


「神聖なる御方の家族……それは孤児院というより、修道院では?」

「うーん、そうなのかな?でも別に結婚しても巣立ってもいいんだから違うような……」

「執務をするということは、ソラ様は別荘で採算……儲けるつもりなのかしら?」

「私は別荘が稼働し始めると、多分今より儲かってしまいます。だから、孤児院は私の分の儲けが出ないように余ったお金で運営するという形ですね」

「ソラ様、では何故私達三人に白羽の矢が立ったのでしょうか?」

「まずマヤ様ですが、ご実家である北国エドウィン侯爵家にある孤児院の噂は聞いています。他の領地からの孤児でも受け入れているとか」

「……それはお父様の功績であって、私は関係ないわ」

「マヤ様もご実家にいらっしゃる時には、よく行かれるとお聞きしておりますよ」

「女の秘密を探るなんて、えっちな人」


 なんでよ。


「神流ちゃんの所の嶺家は元々お祖母ちゃんが拾った孤児達の家族で、貴族になってからもその恩を忘れずに孤児院を運営して同じ境遇だった人達を救っているということは聞いてる」

「なんと、そこまでご存じとは……」


 ひたすら嶺家と人種族の血を求めて卑猥なこと考えていた忍ちゃん達のことを悪く言いたくはないけれど、彼らを分家と呼んでいいくらいには天地の差だ。


「二人の出身地に置くことを考えたら、適任だと思うけど。どうかな?」

「ソラ様、私、貴族じゃない。それに、聖女院の人間でもない」

「ソーニャさんは私の知り合いで唯一の『カエデ』出身でしょう?それに学園卒業後は『カエデ』に帰って、冒険者で生計を立てながら支援するつもりだったのは知ってますよ」

「……ソラ様のえっち」


 だからなんでよ?


「私には予てより野望があったんです」

「野望……?」


 野望と聞いて穏やかでない雰囲気になった三人。


「それは、孤児院『カエデ』をリニューアルすることです」

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