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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第739話 家庭

「ただいま、エルーちゃん。具合は大丈夫?」

「はい。ハープ様に看病いただきましたから」

「いいよ、そのまま寝てて。ハーブティーとプルーンのヨーグルトもらったから、良かったらどうぞ」

「主に給仕までさせてしまって……これではメイド失格です」

「たまにはお世話されるのもいいでしょ?ほら、黙ってお世話されてっ!」

「もう……ですが、ソラ様のメイド服姿を拝めるのは役得ですね」

「これも『記録』されてるとなると、ちょっと嫌だなぁ……」

「でも、してくださるんですね」

「聖女祭のメイド服、また着て欲しかったんでしょ?」

「ふふ、今度は姿絵もきちんと『記録』しませんと……」

「や、やめてよ……恥ずかしい」


 あれ以降、僕は定期的に記録室でエルーちゃんの日記を更新してもらっている。

 『夜にして欲しいシチュエーションを知るため』という名目で見るようにしているけれど、折角許可を得ているんだからそれ以外にも活用したかった。


 主人と侍女という関係上、エルーちゃんの方から命令やお願い、おねだりをすることはほとんどない。

 まともなおねだりなんて、僕との婚約の交換条件に「他のソラ様を想う方々も一緒に娶ってほしい」とお願いされたことくらいだ。

 だからこそ、えっちなこと以外でもエルーちゃんが僕にしてほしいことはしてあげたかった。


「エレノア様とうまくいって、良かったですね」

「エルーちゃんのお陰だよ」

「最後に頑張ったのは、ソラ様ですよ」

「なんだか婚約者がどんどん増えていく気がするんだけど……。色んな意味で大丈夫かな……?」


 僕、いつか後ろから刺される気がする。


「それだけ沢山の方を幸せにしていらっしゃる証でございます」


 この世界の人達は、もうちょっと嫉妬心を持った方がいいと思う。


「エルーちゃんはさ、どうしてあんな交換条件を出したの?」


 そう聞くと、エルーちゃんはハーブティーを一口飲み、ほっと一息ついた。


「……私は予てよりソラ様のぽっかりと空いてしまった心の穴に、どのようにしたらたくさんの愛情を注げるかを考えておりました。その時、仮初の家族としてシュライヒ公爵家の皆様に触れるソラ様を見て、これだと思うものがあったのです」

「?」

「私を娶ることで、私とお子だけでなく、私のお父さんやお母さんとも『家族』になれます。涼花様を娶ることで、ブルーム様や葵様ともご家族になれます。今回エレノア様を娶ったことで、アレクシア女王陛下やアイヴィ王女殿下ともご家族になりますよね?」

「確かに、そう言われればそうだね」

「婚約者や結婚する私たちからの愛だけでは足りないかもしれませんが、私達だけでなく、これから産まれるお子、そしてたくさんの親御様ができることでしょう。その沢山の『家族』の愛ならば、ソラ様のお心をいつか埋めることが出来るのではないかと思ったのです」

「すごいこと考えるね、エルーちゃんは」


 確かにこの世界に来て、僕の家族は一人もいなくなった状態から再スタートした。

 でも嶺家――梓お姉ちゃんの子孫に出会って、シュライヒ家の養子になって、養子も三人迎えて、段々と家族と呼べるものが増えてきた。


 そして沢山の妻に、沢山の家族。

 元家族に苦手意識を持ち、同じ轍を踏む気がして家庭を持つことに否定的だった僕が、今やこんなにたくさんの家庭を持とうとしている。

 確かにそんな空間に囲まれれば、毎日忙しなくて悲しいことなんて考えている暇がなくなるのかもしれない。

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