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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第737話 政略

「失礼します」

「ソラ様、エレノアは奥です。さっきの仕返しでもするのですか?」

「ふむ、それもいいかもしれませんね……」

<ハープちゃん>

<主、そんなしょうもないことに我を使うな……>

<ご、ごめん……>

<奥方様、御自身から仰られるのが恥ずかしいのは分かりますが、我々を使っては奥方様の真のお気持ちが伝わらないかと存じます>

<そ、そうだよね。ごめんなさい……>


 普通にお説教を受けてしまった……。




 ここは正攻法でクラフト研究室のドアを開けてさらに奥の仮眠室の中に入ると、僕の存在に気付いて振り向いたエレノアさんの右手を取って壁に追いやり、そのまま柱の壁に両手を両手で押さえつけた。

 やり方の不器用さに怒っていたのは事実なので、僕は眷属憑依に頼らず素直に怒ることにした。


「今から尋問を行います」

「な、なんだ、いきなり!?」

「先程エレノアさんの『言い分』はお聞きしました」

「……ああ。だがそれで『尋問』とは、穏やかではないな……」

「私は、まだ答えを持ってここに来ていませんから」


 まあ、半分嘘だけど。


「そうか。別に、婚約の相談はボクの独断で王家は関係ないよ。アレクシアやアイヴィがキミに何を吹き込んだか知らないが、それは何も気にしなくていい話だ」

「そんなどうでもいいこと、聞くつもりはないですよ。私が受け入れるか迷っている理由、もしかしてまだ分かっていないんですか?」

「……何の話だい?」


 きっと、住む世界が違うんだろう。

 貴族にも勿論政略結婚はあるが、それでも歴代の聖女の働きによって双方の家族だけでなく本人達の合意なく結婚はできなくなったため、恋愛結婚で相手を決める貴族も多くなってきている。


 だが王族は別。

 聖女相手か、はたまたソフィア女王みたいに実力で政敵をねじ伏せない限りは基本的に恋愛結婚なんてできやしない。

 だからこそ結婚も婚約も政略的だと小さい頃から教えられるのだろう。


「天才にも苦手分野はあるみたいですね。まだ私は、『言い分』しか聞いていませんって言ったんですよ」

「言い分……?」

「王家には婚約に政略的な裏事情が必要なのは知っているつもりですが、それが聖女にはなんの交渉材料にもならないことは知らなかったんですか?」

「いや、分かってはいるが……」

「我々聖女は、一般的な()()()()()()()()()()です。ここまで言わなければ分かりませんか!?」

「……わ、分かってるさっ!だが、これを言ってしまえば、ソラ君は困ってしまうだろう!?」


 そうか、最終手段を取らざるを得なかったのに何かと理由をつけていたのは、この一線を超えることで親友でいられなくなることに怯えていたのか。

 線の向こう側に行くことが怖かったのは、僕だけじゃなかったんだ。


「いつも私を困らせてる癖に、こういう時だけ弱気なんですね?」

「なっ……!?」

「答えるまで、離しませんよ。研究もやらせません」

「こ、こんなの……卑怯だ!」

「だから言ったじゃないですか。これは聖女の『尋問』ですって」


 お互いの鼻と鼻がくっついて、キスしそうな距離まで近付く。


「私のこと、どう思ってるんですか?」

「……す、好きだよ……」


 今まではおちゃらけた表情でしか言ってくれなかったその台詞。

 弱々しく答えたその顔には、初めて涙という感情が露になっていた。


「な、なんだよぉっ……こんなに脅してぇ……っ!キミのことなんてっ!!あの時助けてもらった時からっ!だ、大好きに……決まってるじゃないかっ!!」


 朱雀寮の同僚から親友になった時も、僕達はお互いに不器用だった。

 だから次もまた不器用になるのは、きっと仕方がないことなのだと思う。


「じゃあもう、親友は辞めましょう」

「えっ……んんっ!」


 壁に押さえつけた両手はそのままに、僕は呆けていたその唇を奪った。

 何分か経って見開いたエレノアさんの目が蕩けてきた時、僕はようやく口を離した。


「フィストリアの姓を、捨ててください。エレノアさん」

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