閑話198 好敵手
【セラフィー視点】
「改めて、Sランクおめでとうございます。ソーニャちゃん」
「ん。でも、セフィーの方が強い」
私なんて、お義母様のお陰で運良くすごい力の存在に気付けただけ。
七色属性は各属性の魔法が満遍なく使えるものの、単属性魔法使いと比べると制約があるらしい。
きちんと魔法を理解すれば鳳凰様の加護で得た固有魔法『臨画』を使わずとも中級までの魔法は全属性使えるようになるものの、上級魔法は『臨画』をしないと使えない。
本来聖女様以外の一般的な魔法使いは生涯でそこまで多くの魔法を使えるようにはならないが、単属性魔法使いは理論上自分の属性のすべての上級魔法を使いこなせるようになるが、私は上級魔法を10個だけ『臨画』にストックして使うことしか出来ない。
色々な属性の上級魔法を使える反面、ストックするには実際にその魔法を見なければいけなかったり、数に限度がある点でデメリットも多い。
とはいえ中級魔法以下の習得に関しては簡単で、一度見さえできれば『臨画』でコピーできるので、あとは『臨画』で発動していれば勝手に覚えられる。
これはお義母様のアドバイスだけれど、しばらくは初級や中級魔法を覚えるためにストックの半分を費やし、どんな属性の魔法でも満遍なく使えるように、魔法集めをしているところだ。
中級魔法でも、有利属性で立ち回れば上級魔法に劣ることはないし、複数属性を合成までできるようになれば、上級を上回ることもできるらしい。
「私もついでに貰っちゃって……影としてはあまり目立ちすぎるのは良くないんですけどね……」
「『七魔』、格好いい」
「『双刃』も素敵な二つ名じゃないですか」
今までは聖影の権限を借りて休日に迷宮に潜るだけだったが、折角ギルドランクを得たからには、ギルドの人助けをしつつ自分を鍛えることにした。
「何にでもなれる」とお義母様は言ってくださったが、果たして私は何になればいいのだろうか?
そして燻っているこの気持ちに、決着はつくのだろうか?
聖国ギルドに着くと、人が賑わっていた。
あまり素行の良くない人も居たけれど、ソーニャちゃんのランクを知っているからか絡まれることはなく、ただ話のネタにされるだけだった。
「あら、いらっしゃい!ソーニャちゃん、久しぶりね」
「ミスティ、Sランクなった」
「まあ、おめでとう!そっちの子は、学園の友達?」
「『七魔』のSランク、セラフィー」
「初めまして……」
「まあ!もしかしてソラ様の秘蔵っ子!?」
「な、なんで知って……」
「ギルドですから。いろんな情報が来るのよ」
「Sランクが二人だと!?」
騒然としている中、私は煩わしく感じ、目を背けるために受付嬢であるミスティさんの先客の姿に目を落とした。
「って、マリちゃん先生っ!?」
「あれっ?ソーニャさんにっ、セラフィーさんっ!?」
「先生はどうしてこちらに?」
「授業で使っていたクラフト素材の在庫がなくなってきたのでっ、補充をしに来たんですっ!それでパーティー募集かけるために掲示板に紙を張ろうとっ……」
「マリエッタさん、こう見えてBランク冒険者なんですよ」
「ミスティが、さん付け……!?」
「どうしたの?ソーニャちゃん」
「ミスティがさん付けするのは、年上だけ……」
えっ……!?
マリちゃん先生って、一体何歳なの……!?
「折角だから、付き合う」
「わ、私もお手伝いしてよろしいですか?」
「ええっ!?」
乗り合い馬車に揺られて、目的地に向かう。
「二人ともその年でSランクなんてすごいですねっ!」
「ソラ様のお陰」
「私も、お義母様のお陰です」
「ふふっ、本当にソラ先生はすごい先生ですねっ」
何でも知っていて、私達を正しく導いてくれる。
「二人は、どうするの?」
「どうする、とは?」
「ソラ様の番。エルーが募集してる」
「「ぶふっ!?」」
ソーニャさんが急に変な話をするので、口に含んだ水を吹き出してしまった。
「私は婚約者じゃなくても、側室でいい。セフィーは?」
「わ、私は……」
お義母様の婚約者は、みんな魅力的な人達だ。
私はただお義母様と同じ境遇というだけで、拾われただけ。
胸も大きくなければ、魅力的な何かがあるわけでもない。
「お義母様のことは、好き、です。でも、一歩を踏み出すのは……怖いです」
関係が壊れるのが怖い。
それならば、この気持ちは話さずに現状維持でいたほうがよっぽど気持ちが楽。
「言わないと後悔するかもしれませんよっ?それにっ、家族でもあるんですからっ、喧嘩したくらいで離れ離れになったりはしませんよっ!」
「流石先生」
「これでもっ、大家族の長女なんですよっ!それに私っ、次女のステラともっと話していればっ、あの子が『教会』に狙われていたこともっ、家族に何も言わずに他国に行ったこともなかったかもしれないですからっ……」
「でもステラ様、そのお陰でお義母様の弟子になってましたけどね……」
「今や南の国で『教会』のクランマスターやってるんですからっ、人生先はわからないものですねっ!」
言わないと後悔するというのは、確かにあるのかもしれない。
でも私の場合はそんな重い話ではない。
ただ好きな気持ちを伝えるか否かだけ。
「そういうマリちゃん先生は、どうなの?」
「えっ……?」
「確かに、気になります!」
「えっ、えええっ!?わっ、私ですかあっ!?」
「ソラ様の婚約者候補で言えば、マリちゃん先生がナンバーワンじゃないですか」
お義母様が重度のロリコンであることは、寮の生徒なら誰でも知っていることだ。
「ええっ!?だっ、だってっ!先生と生徒ですよっ!?」
「でもソラ様は先生でもある」
「うっ……でもぉっ、ソラ様は別に私のことなんてぇっ……」
「大好きに決まってるじゃないですかっ!?」
「ええっ!?なっ、どうしてっ……?」
「もしかして、知らないの?」
「授業で黒板によくマリちゃん先生の似顔絵描いて説明しますし、授業中の雑談は大体マリちゃん先生の話ですし、世界一可愛いのはマリちゃん先生っていつも言ってるんですよっ!?」
「えっ、えええええええっ!?」
「『可愛いの権化』。よく言ってる」
「そっ、そんなっ……!?ソラ様がっ……!?」
「マリちゃん先生は?ソラ様、好き?」
「あっ、憧れの人ってだけでっ……それ以上は考えたことがっ……!」
顔を真っ赤にするマリちゃん先生なんて、初めて見る気がする。
もしかして私……今ライバルを増やしてしまった……!?




