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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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閑話197 一万枚

【アイヴィ・フィストリア視点】

「もう、大変だったのよ~!」


 そう仰るのは、サンドラ・ジンデル聖国第二女王陛下。

 丁度学校も夏期休暇で、お母様の命で他国視察のため聖国(ハインリヒ)に赴いていた私に、ソフィア第一陛下がお茶会に誘ってくださったのです。


「よしよし。しかし、まさか師匠にお逢いするなんて、とんだ災難でしたね……」

「ほんとよぉ……」

「でも、お漏らししてるサンドラちゃんなんて見たことなかったから見てみたかったかも……」

「私は小さい頃のお漏らしして泣いてるソフィア知ってるけどね」

「なっ……!」

「それに、あの場に居たらそんな感情なにも沸いてこないわよ。ただ殺されるという感情しかなかったもの……」


 話題に上がったのは、先日サンドラ陛下が赴いた西の国(セイクラッド)で開かれたアリシア王女生誕パーティー。

 そこでアール王太子の第一妃が冤罪で処刑されようとしていたところに、ソラ様が扉を粉々にして入ってきたそうです。


 既に冤罪と断罪の証拠を揃えていたソラ様はなんと怒りに狂い、殺気の魔力を飛ばしただけで王城のあらゆるガラスが割れ、天井を消し飛ばしたと言われております。


「正直、隣にいた涼花ちゃんとエルーシアがどうして漏らしていなかったのか、不思議なくらいよ……。それ以外全員漏らしていたわ……」


 サンドラ陛下はあまり地位に興味がなくソフィア陛下に第一女王をお譲りしたそうですが、第97代聖女ジーナ様の娘であり、序列でいうと同じく98代聖女葵様の娘である涼花様の一つ上。

 涼花様のことをちゃん付けすることのできる、珍しい御方です。

 人種族より長寿のハーフエルフとハイエルフにとって、20歳以上の差は年の差婚でもなんでもないのでしょうが、このサンドラ陛下は確か私のお母様くらいのお年なのですよね……。


 序列については五人の聖女様、ジーナ様の妻ディアナ様、葵様の夫ブルーム様、サクラ様の夫アレン様、ソラ様はご婚約はしましたが成婚はまだのため、アレン様の次がサンドラ陛下となり、その次が涼花様。

 どちらも上から数えた方が早い程ですが、20以上離れている年下の涼花様のことをちゃん付けするのはさほどおかしくもないことでしょう。


 ともあれ序列だけを見れば本来であれば各国の王より発言力を持つような御方ですが、ハーフエルフであることから他のエルフ種の方々に蔑まれてきたことでお心を悪くしてしまい、あまり前に出なくなっておられていました。

 ソフィア陛下はそんなサンドラ陛下を種族の垣根を越えて愛し、王家であるハイエルフ達に認識を改めさせるよう改革を施したとお聞きしております。

 そして、その件に関しても大聖女様は一枚も二枚も噛んでいると……。


「あんなの、化け物よ……。元々ジーナお母さんや葵様と比べても頭一つ抜けていたけれど、あんな脳が考えをやめて身体が動かせなくなるような殺気、今まで一度も受けたことなかったわ……」

「姉弟子に負けているようならまだしも、妹弟子に負けているようじゃ、まだまだなんじゃないかしら?私達……」


 ソラ様に師事して修行を積んだ方々でさえ、殺気だけで粗相をしてしまうなんて、今のソラ様がいかに異次元であるかを物語っています。


「そうは言うけど、どうせ涼花ちゃんもカンストよ?婚約者二人を化け物にして、一体何と戦うっていうのよ、あの人は……」

「お二人ともソラ様のお弟子様なのですね」

「師匠の弟子は結構いらっしゃるのですよ。エルーシア様が一番弟子で、涼花様は……何番目の妹弟子になるのかしら?でもこの間お茶会した時には、涼花様から『エルーちゃんと涼花さんにはもう勝てない』と仰ったとお聞きしておりましたが……」

「それ、随分前の情報でしょう?あの後、謝られた時に聞いた限りだと、教皇龍様と合体していたとか言ってたわ……」

「つ、つまり……」

「あの人は、人類の限界(カンストステータス)を超えたのよ。そんなのに、人類が勝てるわけないでしょう?」

「……」

「……私も、ソラ様に師事してみようかしら……?」

「「ぜっったいに、やめときなさい!!!!」」


 あんなに可愛らしいのに、そんなに怖いのでしょうか……?

 でも、リタ叔母様の真似をしていたときのソラ様はちょっぴり怖かったです。


「そんなことを考えるより、あなたの国も考えることがあるでしょう?」

「?」

「ああ、師匠の領地改革ね。莫大な資本金が余ってるから、各国に超巨大別荘を建てるそうよ」

「そうなのですね。私は存じ上げませんでした」

「昨日通告が私に届いたわ。今頃、アレクシア女王も頭抱えてる頃よ」

「一体、いくらつぎ込まれたの?」

「各国、聖貨1万枚よ」

「は…………?」

「…………へ?」

「はぁっ!?そんなのっ、別荘建てただけじゃ……使いきれないじゃないのよ!?」

「一体、何をするというのでしょうか……?」


 王家のお茶会だというのに話題になるのは、大聖女様の事ばかり。

 私達王族もお姉様も、かの御方の一挙手一投足に、私達は荒波のように揺れ動かされるのです。

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