第729話 篭絡
「おっぱい触らせてあげるから、サイン頂戴!」
「そんなことしなくていいですから……」
「そんな……!?ソラきゅんはおっぱい星人だから、これしたら絶対くれるって真桜ちゃん言ってたのに……」
「大嘘つきじゃないですか……」
「嘘ではないような……」
「エルーちゃん?」
えっち魔人って言ってたの根に持ってる……?
「だ、だって……私の胸も、執拗に……」
あ、嫉妬とかじゃないのね……。
いや、婚約者のは別に嫌いなワケじゃないけど、星人ってほどじゃ……。
「そんな、サインもらえないの……?」
「いや、サインくらいタダであげますから……」
「ほんと!」
「色紙あれば書きますよ」
「ご用意いたします」
「シル君、ごめんね。それにしても、真桜ちゃんにしてやられましたね……。意気投合したんですか?」
「あの子、ネットミームの権化みたいな子ね。話してて面白かったわ。桜ちゃんはほとんど分からなかったみたいだけど」
ネットミームの権化て。
この人も面白い例えする人だな……。
「サクラさん、ネット音痴というより、機械音痴なくらいですからね。昔からそうだったんですか?」
「そうねぇ……あの子、昔は運動派だったからね」
「今と比べると想像できませんね……」
「想像できないのは、ソラきゅんと話しているこの状況よ!いなくなったと思っていたら、この世界に来ていたのね!」
「はい。エリス様のお陰でこの世界で聖女をやることに……」
「男の子なのに聖女なのね。流石はソラきゅんだわ!」
褒めてるの、それ?
「色紙お持ちしました」
「なに書いてもいいわ。ソラきゅんが書いたってことが大事だからね」
「書く代わりに、条件があります」
「なぁに?」
「その『きゅん』、あまり好きじゃないんでやめてもらえますか?いやな思い出を思い出すので……」
「あっ……」
僕がそう言うと、唐突にぶわぁっとサツキさんの目から涙が流れた。
「ぐすっ、そ、そうよね……!無銭で家族にやらされていたんだものね……!ご、ごめんなさい……っ!」
「私はいいですけれど、聖女はみんな少なからず前世にあまりいい思い出がないので、優しくしてあげてくださいね」
「うん、ソラ……君のことならなんでも聞いちゃう!」
違う意味で危ない人だよ、この人。
ショタにならなんでもホイホイ付いていきそうだな、本当に。
「はい、書きましたよ」
「ありがとぉぉっー!ついでにおっぱい揉む?」
「いえ、さすがに婚約者がいますので、お断りします」
「は……?ソラ君に!?」
「お初にお目にかかります、サツキ様。ソラ様専属メイドであり婚約者のエルーシアと申します」
「さっきのメイド美少女!?」
「あと3方と一柱いらっしゃいますよ」
「王族か何か……?って、一柱ってまさか……?」
「はい。昨日エリス様と婚約しました」
「昨日!?ちょっ、さっきから情報量過多すぎるって……」
「だ、大丈夫ですか?」
僕とシル君が同時に倒れそうになるサツキさんを支える。
「ひえぇ!イエス……ショタ……ノータッチ……!」
もろにタッチしてますけど……。
「サツキ様も立候補なさいますか?」
「えっ、でも流石に◯姉妹はちょっと……」
うん、普通はこういう感情なのよ。
感覚が麻痺してるけど、婚約者同士がキスする程仲良しなのは、普通じゃないのよ……。
「そもそも、まだお互いのこと知らないじゃないですか。って、そんなことより!シル君を専属執事にしたいとのことでしたが……」
「ソラ君はシル君って呼んでるのね!素敵……!あ、ええと、そうなの……!ダメ……かな?」
この人、いちいち一言多いな。
「うーん……シル君はやってみたい?」
「私は、やってみようと思います」
「……どうやってシル君を篭絡したんですか?」
「あぁん、ひどい!もう信用ゼロ……?」
「今までの言動を思い返してください」
「大丈夫。お互いに通じ合う事ができたんだもんねー!」
「……まぁ」
本当に弱味かなんか握られてない?
「ま、元々シル君の人生だからあまり口は出すつもりはないよ。サツキさんがあまりにも酷い人なら家族として止めていたけどね……」
「やった♪シル君、よろしくね!」
「……はい」
なんか不服そうだけど、ほんとに篭絡したんじゃないよね……?




