閑話196 情報量
【下野皐視点】
「これは?」
「パソコン……ああ、こっちの世界にはないんだっけ?文字書いたり、計算したり、まあ日常で使える様々な処理をこれ一つで代用できる優れものよ」
私の部屋、凄い豪華なところに机とノートPCが置かれていた。
この世界には電気もまだろくに作られていないらしいけど、魔力を電気に変えて蓄電器に溜めておけるようなので、暫くは充電式のノートPCで我慢するしかない。
文書作成ソフトを立ち上げ、文章を打ち込んでいく。
「凄い速度で文字が出来上がっていきますね……」
「ああ、タイピング?こんなの慣れればある程度は誰でも出来るようになるわ」
「なるほど、アルファベットの組み合わせで日本語にし、変換で漢字にしていくのですね。しかし、画面だけ見て手元を見ないで、どうしてここまで正確に素早くできるのですか?」
「私の場合はプログラマーという仕事柄、これをいかに早く打つかが問われていたから。速さを突き詰めていくと、配置を暗記して見ないで打っていたほうが早いのよ。いちいち目で合っているか確認していたら、思考も時間もロスになるでしょう?」
「なるほど、奥が深いのですね……。まるでソラ様の無詠唱魔法の連続発動並みの速度で文字を打っていますね……」
シルク君、理解力も高ければ洞察力もあるし、部下にしたら凄い仕事してくれそう……いやいや、ショタに仕事させてどうする、私。
というか、ソラきゅんの魔法発動、私のタイピング速度と同じって、何それ……?
そっちのほうが化け物じゃん。
「たとえば『お買い物デートに行って、お揃いのアクセサリー買いたい』とか、『一緒のベッドで寝たい』とか、そういったやりたいことリストみたいなのを書いておく。で、それ同士を結びつけて一つのストーリーを作る。『買い物デートでお揃いのイヤリングをプレゼントし合って、それを夜に二人でベッドで手を繋ぎながら、デートの思い出話に花を咲かせて寝る。翌朝起きたら、ソラきゅんが鼻歌を口ずさみながら僕の買ったイヤリングをつけようとしていた』なんて風にね。そういう光景を実際にはしなくても、想像するだけで楽しい気分になるでしょう?」
「なるほど……」
「後でもう一台のノートPC貸すけど、まずはノートやメモ帳に手書きでもいいの。創作ってそういうところから始まるものだからね」
そこで、コンコンとドアがノックされた。
「はい、どうぞ!」
「サツキお姉ちゃん!久しぶりっ!」
「えっ……!?」
何この美人……いや、どこかで面影が……。
「エリスから聞いたわ!あなたが無事で本当に良かったわ」
「も、もしかして……桜ちゃん!?」
「そうよ!あなたが来るの遅すぎるから、私……あなたより年上になっちゃったわよ」
「ええっ!?」
そういえば、こっちの世界のほうが時の流れが早いんだっけ。
「こ、こんなきょぬー美人になっちゃって!」
「あなたに言われたくないわよ。昔からでかいと思ったけど、もーこんなの牛じゃないの!あ、紹介するわ。私の専属メイド、カーラよ」
「メイドのカーラと申します。サクラ様のお世話をしております」
なんか美人OLがメイドコスしてるみたいな人ね。
おっとり属性の絵美さんと比べると真逆なやり手メイドって感じ。
そのとなりに居るのは、赤ちゃんを抱いているウサギ耳のメイドさんが居た。
「ゲームで見たウサミミ獣人だ、耳ピコピコしてて可愛い!」などと思っていた自分が愚かだった。
「あと私の娘の真桜に、その専属メイドのセリーヌ」
「セリーヌです、よろしくお願いします」
「……は?」
MU、MUSUME……!?
「ちょっと、桜ちゃん!だ、誰に誑かされたの!?」
「いや、普通に円満よ……今度夫も紹介するわ」
「お、夫……」
年の離れた妹のように思っていた子が、超絶美人になって結婚してて、円満夫婦を作り上げて、子供まで作って……!?
「可愛いでしょ?一歳なの。ほら真桜、挨拶なさい」
金色の裏に桜ちゃんと同じブロンズの髪がある。
確かに桜ちゃんに似ていて可愛い……。
「今度、おっぱい吸わせて!」
「!?」
一歳児に、セクハラされた……。
「こらこら、ごめんなさい。真桜は転生者なのよ」
「つまり、あなたと同じ聖女ってワケ!」
ああ、情報の波に溺れる社会の闇……。
原作をもとにした小説が現実に負けるくらいの情報量よ、こんなの……ぱたり。




