第726話 女神
「ご、ごめんねエルーちゃん!その……普段から勝手に『えっち魔人』とか『痴的好奇心の権化』とか『快楽大魔王』とか思ってて……」
「ぷっ、えっち魔人……」
「か、快楽大魔王……」
「「っ……」」
「如何せん、的を射ているだけに……ツボに入って……っ」
みんな笑いこらえてる……。
本当に申し訳ないと思っている。
「僕がエルーちゃんをえっちにしてしまっていたんだね。それなのに、僕は何てことを……!?」
「あの……ソラ様のせいではございません。たとえもし私がえっちでもそうでなくとも、初めてあなた様にお仕えしたあの日から、私はあなた様に恋をしていたことには代わりありませんから」
「エルーちゃん……」
「でも、確かに寮の皆さんにも私の性欲の無尽蔵さは指摘されていて、他人と違うことに少し不安だったのですが、それも理由があったようで安心しました」
無尽蔵……確かに、発情期の獣人二人相手にしたあと、それでなお足りずに一人で致すレベルだったからね……。
「それに、他人よりえっちなことに悩んでいた私を、ソラ様は何も構わず受け入れてくださいました。その上、私が劣情を溜め込んでしまわないように、婚約してからは毎日その、発散……してくださいましたし……」
他人に触れていれば勝手に他人の心を癒して発情するんだから、負の感情の塊のような僕とえっちなことして裸で触れあっていれば、また負の感情を吸収して無限ループみたいになってしまっていたということか……。
僕ってそんなに負の感情で満たされているんだな……。
「私がソラ様のお心を癒して、その分ソラ様とえっちなこともできる……それって、私にとって、とっても幸せなことなんです」
「エルーちゃん……ありがとう」
全部僕のせいなのに、そんなこと言ってくれるのはエルーちゃんが優しいからだ。
そんな彼女を愛せたことを、僕は嬉しくも誇りにも思う。
彼女の発情は僕のせいなのだから、せめて彼女が望んだときにはなるべく僕が愛情を込めて発散させてあげると、改めて決意した。
「『ああっ!ソラ君の貞操が、私のいないうちに勝手に……』」
「まだ童貞ですけどね……」
「『えっ、嘘でしょ……!?』」
「本番はしてないですってば。この世界でも避妊は100%な方法がないんでしょう?」
大事なことだから、流石にきちんと調べたよ。
そうじゃなきゃ、思春期真っ盛りの僕とエルーちゃんが我慢なんてできるわけがない。
「『そ、そうなのね……。と、ともかく!私はエルーシアのその能力を知っていたから、きっとソラ君の負の感情を浄化してくれると信じてあなたをソラ君の専属メイドに選んだのよ』」
「そ、そうだったのですね……」
「『で?どうしてその婚約者が増えてるわけ?』」
「それは、私がソラ様に婚約を了承する代わりに条件を出したんです。ソラ様は私ただ一人を愛してくださると、そう言ってくださいました。ですが、ソラ様は私一人で受け止められるような器のお方ではございません。それに、エリス様や涼花様など、既に沢山のお方からお心をいただいていらっしゃることにも気付いておりました。ですから、私一人でソラ様を独占したくはなかったのです。私はもちろんソラ様が一番ではございますが、涼花様も、ハープ様も、シルヴィア様も、そしてエリス様も、皆様キスしてもいいと思うくらいにお慕いしておりますから」
「『っ……!?』」
エルーちゃんはシルヴィに憑依しているエリス様の右手を取って、その甲にキスをした。
「エリス様、本来私は三番目の女だったのです。エルー君とソラ様と、『ソラ様の婚約者はそのうち数えきれなくなるでしょうが、まずはソラ様の傷ついたお心を癒すお方の中から選ぶべきだ』と話し合って決めたのです。ですから、あの時暴走していたソラ様の記憶を三等分した私は婚約者として認められたのです」
「『涼花……それは当然だわ。いくらエルーシアである程度和らげられるとはいえ、あなた自身にもとても辛い過去があるのに、その上ソラ君のとても辛い過去を1/3も背負ったあなたは、ソラ君と結ばれる権利を持つべきよ』」
「ありがとうございます。ですが、それならもう一方の立役者も、そうなるべきではございませんか?」
「『えっ……?』」
「だって、エリス様がソラ様の記憶を三等分する神業をなさらなければ、そもそも魔力暴走したソラ様はお隠れになられていたのですから」
そう、そもそも僕はエリス様のその機転がなければ死んでいたのだ。
今度はシルヴィの左手の甲に、涼花さんが口を落とす。
「エリス様、聞いてくださいますか?」
僕がまっすぐシルヴィの奥にいるエリス様を見つめると、彼女は顔を真っ赤にして僕を涙ぐみながら見つめてくる。
「僕はこの世界に連れてこられて、今、幸せに生きています。でもそれは、エルーちゃん、涼花さん、そして何よりこの世界を作って、何度も、何度も僕を助けてくれたエリス様のお陰なんです。だから僕は、エリス様が大好きです。僕の、婚約者になってくれませんか?」
「『っ……!はいっ!』」
シルヴィへの朝の挨拶ではなく、僕はそこで初めて、間接的にエリス様とキスをした。




