第722話 助言
「私達奏家は、私が消えてから空中分解しました。そして死んだ姉の独り勝ち。残された私達はそれぞれ元には戻れず、そして姉の、家族の悪夢に苛まれるようになったのです」
家族とは仲良くした方がいいとはよくいう。
でも仲良くできない家族の形なんて、山ほどある。
でもそれでも、理解はできないと突き放してはいけなかったのだ。
僕たちは姉が理解できず心の中で突き放したせいで、姉が一生の傷になってしまった。
そしてリッチによって姉が再びこの世界に出てくる度に、僕は怯え、恐怖することになる。
一生ものの心の傷になってしまった。
「正直アリシア王女とセルマ王妃がしたことは簡単に許されることではありません。本来海龍やクラーケンの懸賞金として払われるはずだったものの横領金、そしてそれ以外の悪事、全てを償うには一生では足りないかもしれません。でもその一部でもいいので、その横領金が民達みんながどれほど汗水垂らして仕事をすれば手に入るものなのか、自分で働かせて教えてあげてください」
「分かった」
「そしてセルマ王妃とアリシア王女と話をして、理解してあげてください。仲良くなくていいんです。向こうも、あなたも、嫌っていいんです。そういう家族もいますから。でも、理解をして、決してお互いに呪い合うことのないようにしてください。それが、似通った人生を失敗した姉としてのアドバイスです」
「……」
正直絶望したアリシア王女は、自殺する気がしている。
でもリタさんも星空も、それは償いからの逃げたともいえる。
それでは、逃げたもの勝ち、民のみんなの怒りは誰も償えなくなってしまう。
「そう、だな……。我にはまだ覚悟が足りていなかったのだろう。姉上、しかと胸に刻んでおくことにする」
「よろしくね、アール君。さて、もうひとつの問題を片付けないとね……」
車椅子に押されながら王城を進むと、病室に到着する。
今回の一番の被害者、ティファニー四妃だ。
「まだ眠っているんですね……」
「お久しぶりでございます。この間は私共の命をお救いいただき誠にありがとうございます」
「エドナさん、久しぶりです。ハイデン王も」
「この度は国の危機をお救いくださり、感謝いたします」
「大聖女様にご挨拶申し上げます。二妃のスキラと申します」
「三妃のメラニーです」
「五妃のイヴです」
「すごいね、みんな芯の強そうな女性達だ」
「あの、殿下が姉上と呼んでいるとお聞きしています」
「私達も、お姉さまとお呼びしても?」
「い、いいですけど……皆さん私より年上なのでは?」
「些細なことです、ソラお姉さま!」
「ティファニーを救っていただき、ありがとうございます。ソラお姉さま」
「まあ、それでいいならいいですけど……」
「んんっ……」
おっと、ティファニーさんが起きた。
「エルーちゃん、手を……握ってあげて」
「はい」
「ここは……」
「ティファニーさん、大丈夫ですか?」
「だい……せいじょさま……!?いやああああっ!?」
「ティファニー!」
「わ、わたしっ!とんでもないことを……っ!」
「大丈夫、ここにいる皆は、あなたがやったわけじゃないことは分かってるからっ!」
「ですが、私は……っ!」
「大丈夫、あなたは誰も殺していない。私達が全部治したから……!」
「ぐすっ、うわああああぁぁっ……!」
やってしまったことは、なくなったりしない。
いくら操られていたとはいえ、自分の視点で行われた犯行を他人がやったことだとは、なかなか思えない。
一時的にアリシア王女を信じてしまったティファニー妃に落ち度がないわけではないだろうけれど、これ以上の報いは必要もないだろう。




