閑話192 語彙力
【コルデリア視点】
私はギルドマスターのコルデリア。
かつては『炎槍』という二つ名で呼ばれていたSランク冒険者。
Sランクになったのも、偶然属性相性の良かった討伐Sランクのエルダートレントを一人で倒してしまったからで、他のSランク冒険者からしたら、自称お飾りSランクの実力です。
だからこれ以上危険なクエストは受けられないと思い、地元のセイクラッドでギルド職員の応募に参加して合格した私は定年退職したギルマスのせいで、他にSランクが誰もいなくてあれよあれよとギルドマスターに。
それでもなんとかやりくりしていたのですが、でも今、滅茶苦茶ピンチなんです!
王宮から支援金が来なくなったかと思ったら、クラーケンが海にやってくるようになってしまったのです。
一匹ならまだ複数人でなんとかなるかもしれませんでしたが、一体ですらなく、他にもドリルカジキなどの獰猛な水中の魔物が海岸付近まで押し寄せてくるようになって、セイクラッドの漁はまともにできなくなってしまったのです!
漁業が壊滅的になると船での護衛や海の魔物の討伐が主な依頼だったセイクラッドのギルド支部には魅力がなく、冒険者どころか職員まで辞めてしまう始末!
クラーケンの件で王宮から懸賞金が出ると王宮からお話があり待っていたのに、一向に懸賞金は出なかったのです。
途方にくれていた私達のところにやってきたのは、なんと大天使シルヴィア様に、大聖女ソラ様!
ああ、神頼みも、たまには通用するのですね!
「って、ど、どうして私まで参加しているんですかぁっ……!?」
「えっ、だってコルデリアさんギルマスなんだからSランクですよね?」
「そ、そうですけど……」
「親衛隊の皆さんとソーニャさんは海岸に寄ってきたクラーケンを討伐してください。終わったら報酬は山分けすれば、コルデリアさんも少しはギルドのお金が工面できるのでは?」
「な、なるほど……!って、クラーケンって、Sランクでも相当強くて一人では倒せないレベルなんですよ!?」
「まあ、うちと真桜ちゃんとこの親衛隊とソーニャさんは強いですから、大丈夫ですよ」
少なくともSランクの私でも一人では無理なのに、この人たちは一体……?
「『神閃』」
獣人の女の子、当たり前のように海の上走ってるし、もう既にクラーケン二匹捌いた!?
あの人さっき鑑定したらAランクだったのに、どうして一人で楽々とクラーケンを捌けるの!?
「おまえら!魔法は全部俺がぶち返してやるから、安心してやっちまえ!」
「――土刀・参の舞、六地蔵――」
「範囲爆撃弓!」
「流石に弱すぎるのも、困り者だな……」
えっ、弱すぎるって言いましたこの人……?
いや、よく見たらこの東国人、あの梛の国のSランク冒険者、『守護神』ではないですか!?
「藤十郎殿、油断は禁物だ。だが、あちらは……すさまじいな」
「ああ。海を割るって、本当にできる御仁がおるとはな……」
海上で戦っているのは大聖女ソラ様とそのソラ様の専属メイドでもあるあの『水の賢者』エルーシア様と、ソラ様の親衛隊長の『紺碧の刀姫』橘涼花様と、神々のお歴々。
目の前でクラーケンを倒していたこんなに強い人達が、それでもなお引くレベル。
ああきっと、海岸付近にいるのがSランクで、海上にいる人達のような人がエクストラランクになるんだろうなと、悟ってしまいました。
Sランクって、ちっぽけな称号だったんですね……。
海を割って、凍らせて、かと思ったらいつの間にか軽く半径10キロメートル位はありそうな超巨大な白い光の円柱が空から降り注いでいたのです。
「わぁ……きれい……」
最早私は、語彙を失うしかありませんでした。




