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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第719話 異父

 翌日、車椅子で僕はギルドへ向かった。

 コルデリアさんが奥へと案内してくれる。

 受付嬢もマスターも一人でこなす彼女は苦労人だな……。

 客間のようなところには親衛隊達とソーニャさん達もいた。


「ソラ様!」

「姉上!ご無事で良かった……」

「お話は何処まで聞いていますか?」

「リッチと海龍の合体でドラゴンゾンビが現れて、浄化したと。あの、これは依頼外のことでの事故で……」

「別に私は気にしてませんよ。まぁただ、どちらかというと私の婚約者達が許さなそうですけれどもね……」


 四人とも、怖い顔してるよ……。


「ともあれ、まずはギルド報酬です」

「それが、今クラーケン素材を競売にかけている最中でして、まだ現金がなくてですね……」

「ああいや、お金は今回はナシで大丈夫です」

「ええっ!?」


 海龍以外にも、逃げてきたクラーケンや他の魔物の素材が沢山手に入っている。


「そして素材はソーニャさんが望んだ分以外はコルデリアさんが貰ってしまってください」

「えっ、えええっ!?あっ、もしかして私が素材を貰えるためにお飾りで参加させてくださったのですか……?」

「聞く限りだとお飾りではなかったようですけどね」

「コルデリア、強い」

「クラーケンをお一人で倒すソーニャさんには言われたくないですよ……」

「海龍とリッチの素材の一部も譲渡します。その代わりお願いがあるんです。今回の海岸付近の魔物達の防衛をした親衛隊の皆さんとソーニャさんおよび私達にギルド証と、今回の成果によって発生する相応のギルドランクを与えてほしいんです」

「ど、どうしてですか?」

「今回の親衛隊への報酬は聖女院とセイクラッド王家で出すでしょうし、今のセイクラッド支部に支払能力はない。ならば、それ相応の権限を与えてほしいんです」


 親衛隊もずっと親衛隊でいるわけではない。

 聖女が崩御した時には別の聖女の親衛隊になったりすることもあるが、大抵は崩御した時に引退したり、年を召して引退したりだ。

 そうなったときに冒険者ギルドランクをある程度持っていることは非常に有益だ。

 第二の人生として冒険者をするもよしだし、何より特定のランク以上を持っていないと立ち入りが禁止されている区域もある。

 どんなランクでも、持っていて損はしないものだ。


「なるほど……でしたら、今から一人一人討伐数や討伐個体を確認して、ギルドランクを査定してきますね!」

「よろしくお願いします。親衛隊でランクを持っていない人の分は新しく発行して貰えますか?」

「了解しました!」

「ソラ様、もしかして私のために……」


 涼花さんがSランクを目指していたことは記憶で共有して知っているからね。

 今回の海龍とドラゴンゾンビ討伐で大貢献した彼女がSランクになるのは当然だろう。


「まぁSランクの認定だけなら実は私でもできるんですけど……ギルドランクって、そういうものじゃないでしょう?」


 E(エクストラ)Sランクの僕はSランク冒険者の任命権を持ってはいるものの、だからといって好きな人に勝手にSランクをあげるなんてことしたら、ギルドが乱れてしまう。

 それにこういうのって積み重ねで得られた達成感と共に貰えるべき勲章だからね。

 

「ふっ、ソラ様は随分と冒険者の気持ちが分かるようだね」

「伊達にエクストラランクになってませんよ」


 話を区切って、今度は王家との話に移る。


「無論王家の借金として賄うつもりだ。聖女院政務官の皆様が暴いた財務や余罪の発見で組織構造が全てわかったからな。そちらも含めて、王家がお布施を行う。民が不幸になるようなことにはさせないさ」

「個人的にはそれで問題ないですが……」

「ソラ様」

「奥方様」


 涼花さんとシルヴィアさんがお小言を言ってくるだろうとは思っていたので、手で制止する。


「分かってます。流石に聖女が一週間寝込むくらいには大変だったのをほぼ無料でやったのですから、その元凶の沙汰やお国の沙汰はこちらにいただきたいですね」

「具体的には?」

「アール君、そろそろ国王になってもいいと思いますよ」

「いや、まだまだ勉強不足だ。今のままでは、また宰相や貴族に騙されてしまう」

「まあ、そこはおいおいですね。五人もお妃さんがいるんですから、そういうところは頼るのも手ですよ」

「う、む……更に尻に敷かれるのは勘弁なんだがな……」


 最初に娶ったのがエドナさんだった時点でもう諦めるべきだと思うよ……。


「と、ところで、母と妹の件だが……その、処刑するのか?」

「ダメですッ!!」


 バン!と机を叩くと、思わず入りすぎていた力のせいで、紅茶がこぼれてしまった。


「あ、姉上……!?」

「殺すなんて、そんなこと……絶対にさせてはいけません!!」

「姉上、理由を聞いてもいいか?」

「はぁ、はぁっ……」

「アール王太子、リタ・フィストリアの件は貴殿も知っているだろう?」

「ああ。確か、獄中で自殺したと……」

「ソラ様はそれが御自身のせいだとお思いなんだ……」

「それは、違う……」

「いや、ソラ様は首謀者の怒りが王家に向かないように、わざとああいった立ち回りをなされた。だからこそ、リタもセルマもアリシアもソラ様を憎んでいる」


 正直、解決方法は他にもあった。

 もし3日後の制限があったとしても、一度魅了で繋がれた紐は何年かしないとほどけない。

 そのため聖獣フェンリルなどのアリシア王女より高位の闇魔法使いが魅了してアリシア王女の魅了の紐跡を見ることも出来た。

 ただ三日後まで放置してしまっては、エドナさん含め失う命が沢山あった可能性が高かった。


「それに聖女に裁かれた者は過去にもいたが、何処の国に逃げても釈放されても罪人扱いされてろくに生きてはいけない。だから余生を贖罪に費やすことに耐えられず、獄中で死を選ぶ者も多い」

「そんな……それではソラ様が悪者のようではないですか!」

「ソラ様、大丈夫ですか?」

「はぁ、はぁっ……」


 エルーちゃんがほほに触れてくれたお陰で少し落ち着く。


「確かに私達聖女がそれほどの影響力を持っていることは分かっていますし、リタさんの一件で痛感しました。それでも今回の件は何とかしないといけないと思って、こうなることが分かっていて介入しました」

「では、どうして……」

「私が、アール君と同じ境遇だったからです」


 座って話し始めようとしたら、足が震えていた。

 思わずこけそうになったところを涼花さんが掴んで支えてくれた。

 そして震える手をエルーちゃんが掴んでくれていた。


「アール君は異母妹であるアリシア王女に居場所、両親、名声、王位の全てを奪われようとしていました。私もまた、私に居場所と両親、そして評判と自由を奪われた星空(せいら)という()()姉がいました」


 そう、私は初代聖女嶺楓の一生を綴ったメイド、ダイアンさんの日記を読み、あの家族の全てを知ってしまった。

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