閑話19 投資家
【ライラ・クロース視点】
休日。
今日は叔母様が帰って来ていた。
「久しぶりね、ライラちゃん」
「お久しぶりです、学園長」
「流石に学園の外で学園長と呼ぶのはやめて頂戴……」
「冗談です、叔母様」
「相変わらず本の事以外は無表情ね」
余計なお世話だ。
私はただ書に触れていたいだけ。
「そういえば、演劇見ましたよ。貴女の語り部、見事なものでした」
「ありがとうございます。ですが、優秀な後輩たちのお陰です」
シェリルの脚本がなければ上手く行ってなかった。
それに……
「そうですね。とくにシエラさんの演技力には驚かされたわ……」
私もこくりと頷く。
「きっとあの子は、才能を妬まれていじめられるようになったのでしょう」
「あら?ライラちゃんもその話、聞いていたのね」
「ええ、演劇がいじめられた原因になったとだけ」
あれだけの才能があれば、妬まれるのは仕方ない。
だがそういう才能の芽の潰し方は、私は大嫌いだ。
私は他人の才能の芽を開く側の人でありたい。
「シエラさんのことは、私の代わりに見守ってくれると助かるわ」
「はい」
「そういえばシエラさんで思い出しましたが、今度ソラ様とお茶会の席を設けることになりましたから、よろしくお願いね」
「……」
「貴女から用があるんでしょう?」
「……はい」
やはり隠し事はするものじゃない。
「大丈夫よ、ソラ様は頑張っている子には優しい方だから」
最近会長も叔母様も、何かとソラ様の話をしたがる。
それだけ魅力的な人だということなのだろう。
私は聖女祭で驚かすという最悪な出会い方をしてしまったから、既に幸先が悪すぎる。
いつ来るかわからないイベントに想いを馳せつつ、私は待ち人の来るのを待っていた。
昼を過ぎて叔母様は何処かへ行くと、待っていた後輩がやってきた。
「いらっしゃい、シェリル」
「お、お邪魔いたします……」
この萎縮している後輩こそが、私の見つけた芽だ。
客間へ案内すると早速本題に入る。
「例のものは?」
「は、はい……こちらに……」
端から見ると闇取引のようだが、シェリルが取り出したのは原稿用紙。
「では、読ませて貰うわ――」
半刻後、私は原稿用紙を整えた。
「素晴らしいわ!劇の脚本もとても良かったけど、貴女にはやはり百合小説の方が合いそうね」
「あ、ありがとうございます!」
「私、続きが気になって仕方ないもの。私のために書いてくれたお礼に、是非これを受け取って貰えるかしら?」
私は用意していた契約書類を出す。
「え……そ、そんな……」
「私は才能ある物書きに出資して花開かせるような、新しいレーベルの形を作りたいと思っているの。だからその夢の第一歩として、あなたと出資契約を結ぶわ。貴女が書いた本が有名になることが私の……いや私達の第一歩よ」
「で、ですが……流石にソラ様にご許可をいただきたいです……」
「確かに主人公は『大聖女さま』としているけど、実名が出ているわけではないから許されると思うわよ。でもそうね……貴女が気に病んで続きが書けなくなるのは困るから、今度聞いてみて貰えるかしら?」
「は、はい!」
「私からも今度、お願いをしてみるから」