第716話 金環
海龍リヴァイアサンの懐に入るのは避ける。
外側からくるっと一周、ステータスの俊足と雷魔法の身体強化で高速移動して、弱点である尻尾を探す。
<旦那様、お使いになられたことないのに、これほど雷属性を使いこなすとは……>
<僕がどれだけ雷属性の魔物や神獣・白虎を倒してきたと思ってるんですか?使ったことなんてなくとも、使い方もその効果も弱点も、全部知り尽くしているんですよ、こっちは!>
<旦那様、楽しそうですね>
だって、ゲームで使えなかった雷属性が使えるんだもん、そりゃあ嬉しいに決まってるよ!
「『見つけた。――八の型、空蝉――』」
長い尻尾をビタンと叩きつけたところを宙に避け、型技を使った後雷刀『千鳥』をアイテムボックスに出し入れすることで型技のクールダウンを回避する。
聖女以外には真似できない、刀術の真髄だ。
そのまま弱点のところまで潜り込むと、尻尾に向けて連撃を放つ。
「『――雷刀・弐の舞、金彩地――』」
まるで紙の上に金粉を巻き散らかしたかのようにランダムに突き刺す雷の刀が尻尾を傷つける。
海龍自体が陸の戦闘に慣れていないのもあるだろうが、完全に予想だにしていなかったのもあり、奇襲には成功する。
ランダムさが功を奏し、尻尾に傷をつけた張本人が何処にいるのか見当がつかず、海龍は見当違いな場所を締め上げようとしていた。
「『――陸の舞、金糸雀!――』」
そして完全に尻尾の後ろ、頭から死角に回り込んだところでピーーとまるで鳥が鳴くような素早い雷の音を立てて尻尾が切られる。
「ギシャアアアア!!」
「『――漆の舞、金壺眼――』」
切られた痛みで尻尾を上げたところを、すかさず下から掬い上げるように更に尻尾を削り取る。
「『――壱の舞、金剛石――』」
続けて物質的な雷の魔力でダイヤモンドのように固い張り手を突き出し、尻尾を引きちぎる。
尻尾の先っちょから順々に、まるでキュウリの輪切りをしているような感覚だ。
どうしてこんな回りくどいことをしているかというと、これこそが海龍リヴァイアサンの正当な攻略法だからだ。
リヴァイアサンは最終的には頭を攻撃しないといけないものの、魔力が頭付近に向かって集中しきっており、その魔力で体を硬化している。
その頭の固さは、オリハルコンの比じゃないレベルであり、そのままではどんな物理も、弱点である雷魔法もろくに効きやしない。
唯一効くのは先程涼花さんが使用した重力魔法で、魔力が塊のように溜まった頭は質量が半端なく、質量が多くなればそれだけ重力の影響を受けるので、頭だけ動かず地面に這いつくばらせることができる。
だが頭を這いつくばらせ固定できることはいいものの、そもそも海龍は細長い龍なので頭一点を固定したところで可動領域にはそこまで困らないし、這いつくばらせているだけでダメージを受けているわけでもなんでもないから、本当に身動きを止めているだけ。
けれど本来重力魔法『超重力』は涼花さんのような無属性だけしか使えない魔法使いにしか使用できない魔法だ。
一応セフィーや鳳凰が『臨画』を使うことで使用できるけど、僕には使えない。
「『――肆の舞、金冬瓜――』」
頭に対して尻尾側は魔力があまりないので柔らかく、簡単に切れる。
だから尻尾を切れば、血管から血が吹き出るように魔力が漏れ出ていく。
そして尻尾をどんどん削っていけば、次第に海龍も尻尾と頭が近くなり、その頃には頭に貯まっていた魔力が尽きるのだ。
「『――伍の舞、金盞花――』」
遠くでは涼花さんが魔法を完全に封じ、頭を固定しヘイトを集めてくれるおかげで、僕はなんの不自由もなく尻尾を輪切りにしていくことができた。
もう電車の一車両くらいの体にまで千切られ、最後のトドメをさす。
「『終わりだ……雷刀・奥義――金環――!』」
自らを巨大な雷のように太い一閃を繰り出すと、一車両のど真ん中に金環日食のように巨大な黒い穴が空けられ、尻尾と頭が真ん中で分断されたようにどさりと倒れた。
「『終わ』りましたね……」
魔力の消費を抑えるためシルヴィアさんの憑依を解く。
もうちょっと苦戦すると思ったけれど、無傷でいけたのはシルヴィアさんとの憑依のお陰だ。
「シルヴィアさん、あなたの雷属性のお陰で楽に倒せました。本当に……」
「旦那様、後ろッ!」
「え」
明らかな魔力のある尻尾に後ろから絡め取られ、僕はそのままエルーちゃん達が魔法で水を塞き止めて固めた氷の壁に向かって叩きつけられた。




