閑話191 くぐつ
【アリシア=セイクラッド視点】
「可愛いアリシア、あなたは天使のように可愛いわ!」
「まま!」
「あらあら、もう言葉を喋れるのね!あのバカ王子と違って、うちの子はとっても賢いわ!」
「ほんと!?」
「ええ。本当よ。あなたは女王になるのよ!あなたは特別なんだもの」
そう、私は特別なんだわ。
「――アリシア様は素敵ですわ!テストでも8割を取られて!」
「きっと、万年ビリのあの王子に頭の悪さを全て持っていかれて、お生まれになったのがアリシア様だったのですわね」
「陛下はあんな王子をまだ目にかけているようですけれど、早くお捨てになればよろしいのですわ……」
「もう、滅多なことを言うものじゃありませんわ!どこで聞かれているか分からないのですよ」
「そんなもの……だって、この国のほとんどの令嬢との縁談を断られているのに、まだ縁談の話を持ってくるのですよ!次は私かもしれなくて皆さま恐ろしいのです!」
「早く女王になってくださらないかしら……!」
お母様も、みんなも、私が女王になれると期待してくれている。
お兄様には別にこれと言って感情もありませんけれど、私の人生の踏み台にはなってくれそうでした。
だって私は、特別だもの。
『もし関係が改善されていないようでしたら、私がアール王子を連れ去りますから。覚悟しておいてくださいね!』
大聖女様が来て、そんなよく分からないことを言ったのです。
アール王子がバカになったのも、私達のせいだとかよく分からないことを言って、すぐに去ってしまいました。
それから、なんだか皆さんおかしいことを言い始めたのです。
「アール王子がまともになったって噂、聞いた?」
「ま、まあ、あの変な顔さえなければ格好良いわよね」
「もう学生ではないけれど、領地を任されて国を豊かにされているそうなのですって!」
「王太子になる日も近いのかもしれないわ!」
どうして?
私が女王になるべきなのでしょう?
私は、特別なのでしょう?
「全部、あの大聖女が来てからおかしくなったのだわ……!」
「アリシア、滅多なことを言うものじゃありません!」
「お母様までそんなことを言うのですか……!?私が女王になるのではなかったのですか?」
「ええ、そうよ。私は信じているわ……!あなたこそ、女王になるべきなのよ……!」
いつからか、お母様からの評価が「なる」が「なるべき」に変わっていたことに気付かずに、お母様の眉間にシワがよるようになっていたことばかり気になっていました。
「リズリー、あなた弟がいるのよね?」
「は、はい」
「弟のこと、いつまでも大切にしたいと思わない?」
「な、にを……」
「大丈夫よ。あなたはただ明日1日の間、ティファニー妃の命令に従うだけでいいの。簡単でしょう?」
そう、私は女王になるべきなのだから。
「ねぇティファニーお姉さま、一緒にお茶しませんか?」
分からず屋のお父様とお兄様には、特別に賢い私が『説得』をしなければなりませんものね。




