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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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閑話190 恩返し

【イヴ・セルローラ視点】

 セルローラ子爵家は貧しい貴族家でした。

 使用人も雇えない私達は身支度も自分達でやらなければならないほどの貧乏貴族でした。


 そんな中どうにか食い繋いでいくことができたのは、母の裁縫と私に光属性魔法が発現したことのお陰でした。

 光属性魔法は、聖女様と同じ、人々を救う魔法。

 私はそんな光属性魔法を使えることが、唯一の誇りでした。


 すぐに神殿で光魔法の使い方を教えていただき、怪我をした方々の治療をするお仕事をいただいたのです。


 そのお陰か幼い頃から学校にも通わせて貰い、私は両親の厚意に必死で報いてお金を稼ぐ術を学ぶべく必死に勉強しました。


 流石に他の貴族家は家庭教師を雇っていますから、それでも周囲のある程度お金のある貴族と比べてしまうと、学力は高い方ではありませんでした。

 ですので淑女が皆憧れる聖女学園なんて夢のまた夢でしたが、それでも中堅の学園に入りトップの成績で奨学金制度で学費を免除して貰うことができた時は、嬉しさも一入(ひとしお)でございました。


 ですが、物事はそううまくばかりいかないものです。


「この学園のトップが、あんな貧乏貴族の芋娘なんてね。やってられないわ」

「奨学金目当てでしょ?ほんと、がめつい女よね」


 流行りのドレスもまともに用意できない私は社交界に顔を出すことも少なく、貧乏貴族と揶揄されては、あることないことが噂となってしまったのです。

 その上私は中堅学園とはいえ成績トップなうえに光属性魔法使いで名前だけは目立つ存在でした。

 つまり、恨まれる素養しか私にはなかったのです。


「ねぇあんた、成績良いからって調子乗ってるでしょ?」

「ちょっと屋上までお越しくださる?」

「あ、あの……私この後神殿でお仕事が……」

「ハァ?あんたね、子爵家の分際で伯爵家の私の言うことが聞けないっての!?」

「いえ、そんな……」


 また、叩かれる。

 そう覚悟したときに、遠くから声がしたのです。


「おおーい!ご令嬢達!私も混ぜてくれー!」


 それは今でも思い出す、下心全快のお顔でした。


「ゲッ!?バカ王子……!?」

「わ、私は失礼させていただきますわ!」

「えっ……!?」


 彼は中堅学園で毎回最低点数を叩き出していた、アール王子でした。


「ああ、行ってしまった……まってくれー!私の花達ー!」


 情けない声と顔をしながら、私を罵倒していた令嬢達を追い回す、一国の王子様。

 おそらく彼の目には先程の麗しい令嬢達しか見えていなかったのでしょう。

 ですが偶然にもそのお陰で私と全く真逆の境遇の王子様に、私は助けられてしまいました。


「くすっ、ふふふふ……」


 なんだかおかしくて、笑ってしまいました。




 それから学園を卒業して神殿勤めになったある日、お父様から手紙が来たのです。


「アール王太子との、縁談……!?」


 その頃にはアール王子がバカなどという噂はなくなって、エドナ様をはじめとする三人の妃を迎え、王太子となっておりました。

 後宮は争いの耐えない戦場と聞きます。

 がめつい芋娘などと呼ばれた私がそんなところに行けば、格好の的でしかありません。

 ですが王家の命を断ることもできず、私は受け入れることしかできませんでした。


 せめて妃の一人となったその時は、五国会議で憧れの聖女様とお逢いできますようにと願って王宮へ向かうと、私は成長なされたアール王太子にこう懇願されたのです。


「イヴ!お前に頼みがある!私の味方になってくれ!」


 いつの間にか格好良い背丈になられてはおりましたが、目のくまも凄く顔色も最悪な王子様を見て、私は彼すらも覚えていないであろうあの時の恩返しが果たそうと奮起することにしたのです。

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