第711話 眷属
成人記念パーティーに参加していた貴族は一旦全員取調室に入れられ、聖女院が事情聴取と調査の後、信頼に足る実績が保証された者のみ解放されることとなった。
調査は聖女院に任せて、僕たちは選りすぐりだけで沿岸付近に立つ冒険者ギルドへ向かった。
「あれっ、シルヴィアさんに、ソーニャさん?」
「奥方様……。ご存じかと思いますが、海龍リヴァイアサンがこの海域にいるようです」
「やはりですか……」
「もう来てる」
ソーニャさんの言ったとおり、窓辺から覗くとまだ遠いものの、ここからでも海龍のその長い首が見えていた。
「結局、奥方様を頼ることになってしまいました……」
「気にしないでください。きっと、私の使命みたいなものですから」
「せめて、主が帰還していれば……神力を貰って不死身戦法が取れるのに……」
「そんな自己犠牲はやめてくださいよ、シルヴィアさん。もっと私達を頼ってください」
「主、主!」
珍しくハープちゃんが断りもなく僕の手から転移魔法陣を作って出てきた。
「どうしたの?ハープちゃん」
「我と同じようにすれば、良いのではないか?」
「えっ?シルヴィアさんをってこと?」
「そうだ」
「でも、それって……」
つまり、シルヴィアさんを僕の眷属にするということだ。
「そもそも私がハープちゃんを眷属にして、ハープちゃん側になにかメリットってあったの?」
「前にも話したが、パスの通り道が変わると言う話だ」
「確か、エリス様に繋いでいたパスを私に繋ぎ変えたんだっけ?」
「ああ。だがそれはあくまで魔力のパスだけだ。主は神力を作れないからな」
「つまり、今のハープちゃんは肉体である神体を維持するための神力を得るためにエリス様の加護を貰いつつ、魔力を私から得るために私の眷属になっているということ?」
「そういうことだ!」
神体というのは、僕たちで言う肉体だ。
彼らは心臓などの臓器も全て神体……つまり神力で作られている。
これはたとえ神体が欠けてもエリス様が神力を注げばもとに戻る。
人間で例えるなら心臓が割けても、身体全体が灰になったとしても神力さえあれば元通りになるということだ。
神体って、凄まじい。
まぁそれほどの力がある反面、人体に組み込もうとすれば魂の方が耐えられなくなるらしいと聞いているから、到底人が扱える代物ではないのだろう。
ともあれ神力を作れるのも注げるのもエリス様だけだけれど、神獣も大天使も戦闘中に使っているのは魔力なので、それは僕から共有できると言う話なのだろう。
眷属化した場合、念話で会話できたり、あとさっきのような眷属憑依が使えたりと僕にばかりメリットがあると思っていたけれど、一応眷属側にも少しはメリットがあるようで安心した。
でも、今の問題はそこじゃない気がする。
「勝手にしてしまって、いいものでしょうか……?」
ハープちゃんもシルヴィアさんも同じエリス様に作られた存在に変わりはないのだけれど、ハープちゃんは所謂エリス様の子供のような存在だと聞いている。
対してシルヴィアさんはもともとエリス様の眷属として産み出した存在。
エリス様がいない今、元々エリス様の眷属を勝手に僕の眷属にするなんて、そんなのほぼ強奪のようなものだろう。
「主、メリットはもう一つあるぞ」
「えっ、そうなの?」
「好きなものと、繋がりを作って、気持ちを共有できる事だ!」
そういえば降神憑依も気持ちが共有されるって言ってたっけ。
眷属憑依したときにハープちゃんの怒りを自分の怒りのように思っていたってことか。
「でも、それって……」
「我は主が大好きだからな!」
「わ、私は……」
「……」
流石にここまで言われて、気付かないわけにはいかない。
「ソラ様!据え膳ですよっ!」
「唆さないでよ、エルーちゃん……。アール王子のこと、いえなくなっちゃうじゃん」
「ははは!姉上も同類だな!」
スケコマシ兄弟って、笑い事じゃないんだけど……。
「もーっ!わかりましたっ!二人とも、私が貰っちゃいますからっ!だからシルヴィアさん!私の眷属になってください!」
「ほ、ほんとうに、よろしいのですか……!?」
「全部ぜーんぶ、こんな時に一ヶ月も留守にしているエリス様がいけないんですっ!だからもう、帰ってきたら、私達みんなで文句を言ってやりましょう!」
感極まるシルヴィアさんは、僕の手をそっと取った。
「……このシルヴィア、奥方様を心よりお慕いしております!」




