第709話 破滅
「制裁……ですか」
「本当は王家だけの制裁のつもりでした。悪いのは王妃と王女の二人だけ……まあ王女派の貴族達も絡んでいるようですが、それも二人が牢に入れば、残りはお金や人質や権力で引き寄せられた人達でしょうから、自然と解散するでしょうし」
「しかし、問題が発生した……」
「それが、我々の三つ目の罪……」
「はい。それがアリシア王女の持っていたこの毒です」
「毒……ですか?」
「さて、そもそも毒物の流通なんて、普通しませんよね?」
「……!?」
「確かに……」
「それも、この毒は初級光属性魔法のキュアを持っていたイヴ妃でさえ、完全には治せなかった毒です。医療用だとしてもあり得ませんので、完全に法外のものですね」
「そんな代物、流通していることすら聞いたことがない」
「梛の国でインキュバスが地下に作っていた闇市場は我々が潰しましたからね」
「では我が娘は、この毒を、どこから仕入れたのだ……!?」
「……」
失神してるのか、答えないのかはちょっとよく分からなかった。
「まあ、アリシア王女……あなたが答えなくても、私はその答えを知っていますから問題ないですよ。――『眷属憑依』――」
「ソラ様、またっ!?」
また僕の手足に鱗が生え、羽も生える。
「『答えは至極簡単だ。大方その執事から買ったのだろう?。多額の資金と引き換えにな』」
「っ!?」
図星を点かれたアリシア王女が反応したお陰で、僕の予想が正しいことを示していた。
患グラスを装着して執事の病状が表示されないことをきちんと確認し、魔法で光の大きな手を伸ばし、アリシア王女の隣にいた執事を鷲掴みにした。
もがきだした執事はやがて人ならざる姿に戻っていく。
やがて尖った牙が姿を表し、悪魔のように黒い身体、そして黄色い角、背中には禍々しい羽が生えてきた。
かつてルドルフ元公爵令息を騙して涼花さんを殺そうとしたあの毒を仕入れ、更には老執事に化けて人を貶めたあのバフォメットの姿に変わった。
「グギャアアアッ!?」
「ま、魔物!?」
「しかも、バフォメットだと!?」
僕はそれを光の大手で掴んだまま、そのまま光の大手ごと天井向けて投げ飛ばした。
以前はハープちゃんに魔力を送って二人でやった合体魔法も、今や僕たち自身が合体しているので、手に魔力を込めるだけで出せる。
「『――リフレクション・フルバースト――』」
右手に貯めた魔力を思い切り天井に向けて掲げると、開いた手から円柱上に巨大レーザー光線が天井を突き抜けていく。
上級魔法『ディバインレーザー』のような破壊的な光線で吹き飛ばしたり、最上級魔法『ホーリー・デリート』のようなすべてのモノを消す魔法とは違い、リフレクションバーストは一定以下の魔法耐性のないものに対して、ことごとく塵に変える。
バフォメットなどなんのその、王城の天井さえも全て塵にして消えていった。
落ちてきたバフォメットのドロップ品、『修練の魔石』を掴むとアイテムボックスに入れた。
「つまり、アリシア王女は魔族バフォメットに唆され、多額のお金と引き換えに大量の毒を仕入れ、それを使って王と王太子に盛ったと?」
「『いいや、アリシアはバフォメットに唆されていなかった。ヤツはアリシアに毒を渡しただけだ。何故なら、一度同じように唆したことで我に倒されているからな』」
「魔族が……学習していると!?」
「『そうだ。何故ならバフォメットは同じ"作られた"個体だからだ』」
「作られた……?」
「『バフォメットを作っているのは、魔王四天王の生き残りであり定期的に復活し分裂する厄介な魔族、不死王リッチ」
「なんだと!?」
そう、既に何回か見ているバフォメットも、リッチの眷属だ。
「『アリシア=セイクラッドはバフォメットをのさばらせたばかりか、毒と引き換えに大量の軍事資金を突如出現したリッチへと引き渡し、今なおセイクラッド王国を破滅へと導いている。それがこの国の三つ目の大罪だ』」




