閑話188 巻添え
【サンドラ・ジンデル視点】
「アリシア王女の、成人記念パーティー?」
「そう。聖国からも代表として王家が一人行かなきゃならないの。執務は代わりにやるから、一人で行ってきて頂戴」
「ええ~めんどくさい~!」
「じゃあ、代わりに執務やりますか?」
「う、うううう~~!」
事務仕事がめんどくさくてお茶会とかパーティーの参加を率先してソフィアの代わりにやっているけれど、私、元々気の利いたこと言える方じゃないし、こういうの向いていないと思う。
けれどセイクラッドの衣服も気になるし、結局私はソフィアに押しきられてパーティーの参加をする羽目に。
「それに私、遠出好きじゃないのよね……」
「そうなのですか?」
セイクラッドまで付いてきてくれた侍女のベスが、私の唯一の話し相手。
他にも馬車の御者と護衛がいるけれど、そもそもソラ様の弟子である私に護衛なんて必要ない。
ステッキ武器で師匠から物理攻撃も魔法も一通り先方を教わったから、時々王宮騎士や王宮魔術師に指導なんかもしているものの、口下手な私だと強気な物言いになってしまって叱っているように聞こえちゃうから、師匠みたくうまくはできていない。
でもそれでも慕ってくれる中から今回の護衛を任せているものの、ついでに指導もしてほしいというのが今回の旅のサブミッション。
「馬車にずっと乗ってるの、腰辛いのよ……」
「それは、サンドラ陛下が毎晩腰を過酷に使っていらっしゃるからでは……?」
「なっ……!?ベス!あなた覗いてるなんて悪趣味よ!」
「覗いてなんていませんよ。毎晩夜隣から聞こえてくるんですもの。今度耳栓買おうか迷っているところです」
「むぅ……悪かったわね」
「構いません、お仕事ですから。それに私もセイクラッドのお洋服見に行けますし!」
ベスがやけに付いてきたがっていたのはそれか……。
「それにしても、ご機嫌斜めですね」
「いいわよ、別に。帰ってきたら、埋め合わせしてもらうんだから!」
そう、帰ってきたら「子作りしましょう」と言われている。
こんなずるい誘いかたしてきて、私を欲求不満の塊にしてっ!
マクラレンのところも男の子が産まれたみたいだし、私も早く赤ちゃんが欲しいわ!
もう帰ってきたら私が許すまでソフィアを犯して、その後病院に行って既成事実まで作る算段まで整えてやるんだから!
「こんなパーティー、早く終わらして、直帰してやるんだからっ!」
そうなるはずだったのに――
「――反吐が出る」
「っ!?」
生誕パーティー当日。
何故か王も王太子も不在、王太子妃は罪人として囚われているし、なんか突然大扉が粉々にされるし……!
「も、もう、なんなのよぉっ……!?」
その上粉々に吹き飛ばされた大扉から師匠と親衛隊達が出てくるし、師匠の口調がいつもと違って怖すぎるし、もう訳が分からない!
しまいには師匠から翼が生えて光輝くと、私も含めその場にいた全員が拘束されてしまって、私でさえ抜け出せないなんて、もう何がなんやら!
「『我の婚約者に手を掛けた者は、たとえ誰であろうと赦さない……!!これが貴様らの、二つ目の罪だ!』」
今まで一度も聞いたことのない重苦しい声と共に魔力の圧力を全身に浴びた私は、怖さが限界を超えて、粗相をしてしまった。
しかし失禁を垂れ流しているのは私だけでなく、周りの皆もそうだった。
扉もあらゆる窓も全部壊れちゃったし、後ろは水浸しよ。
ソフィアと一緒に選んだお気に入りのドレスもびしょびしょで台無しだし、ほんとにどうしてくれるのよ、大聖女様!
普段怒らない人って怒ったとき怖いって言うけれど、もはやそんなレベルじゃないでしょ……人が変わりすぎだし、種族も変わってるもの。
私、こんな恐ろしい人相手に、この間本人の誕生日パーティーの当日に参加しなかったってだけで怒鳴っちゃったのよね……。
「あ、あは……は……」
私、今日で死ぬのかしら……?
もう、誰でも良いから……助けて……!
ソフィア……ディアナお母さん、ジーナお母さんっ!!




